久しぶりに帰った家は、あまりにも静かだった。
いつもなら、ハヤとそれに殴られている弟がいる筈であった。
殴られながら此方を見て、一瞬口角を上げた弟はハヤは自分しか見ていないと言っているようで気持ち悪かった。だから居ないなら居ないでいい。
本当に久しぶりに帰った家は、何一つ変わっていなかった。玄関から入ってすぐにあるクローゼットに上着をかけ、リビングに向かう。
と、後ろから物音がして弟が玄関を開けて入ってきた。
一瞬、振り向いて、リビングで一緒になるのも嫌だと部屋に向かった。
久しぶりに見た弟は、相変わらず前髪がうざったいと思った。
部屋に戻ったはいいが、何一つ置いていない自分の部屋は暇だ。
やはりキッチンから何か食べ物でもとってこようと部屋の扉をあける。何故だか玄関が閉まる音がしたので玄関に行ってみると、弟の靴が無くなっていた。
少し嬉しかった。
そのままリビングに向かった。
そして、その中央にあるテーブルの上にメモを見つけた。
兄貴が、弟に向けて書いたメモ。
弟が最近、街に出ているのは知っている。恐らく兄貴が家を出る前に出て行ってしまったのだろう。
今日は遅くなるから、飯は自分で作れと書いてあった。
そのメモの隣に弟が兄貴に書いたメモ。
今日は友達の家に泊まります。お友達の両親も是非というのでお言葉に甘えようと思います。明日の夜には帰るので、心配はしないでください。
「どこの優等生だよ、糞が。」
本当に学校に行っていないのかと言いたくなる綺麗な字で書かれていたそのメモをグシャグシャにしてキッチンのコンロで燃やす。
兄貴が弟に向けて書いたメモも一緒に。
オカシいだろ。
「兄貴の弟は俺だけでいい。」
なぁ、そうだろ兄貴。
理想なのか妄想なのかも怪しいことを呟いたのと同時に玄関が開く音がする。
兄貴だ、とただ思って口角が上がる。
同じ空間にいるだけで幸せなのはきっと俺だけだろうけど。