AM9:00、もう既に学校は始まっているだろう時間に俺の目覚ましは鳴る。
面倒だと思いながらも体を起こして、枕元の眼鏡をかける。
洗面所に向かい、つけたばかりの眼鏡をとる。顔を洗う為に流した髪の毛の間から、会ったこともない親譲りだといわれる整った顔が露わになった。
顔を洗い、鏡を見れば、長い前髪と再びかけた眼鏡で顔の半分が隠れた。
我ながら根暗にしか見えないなぁと思いながら、満足する。
これが俺、だから。
リビングに向かうと、長男である一番上の兄貴が声をかけてきた。
「行斗(ゆきと)、今日も休みか?」
「……………。」
無言で頷く。
「そうか。」
少し残念そうに心配するように呟いた兄貴は、キッチンから俺の朝食を運んできた。
大学生である兄貴はこの家の中で唯一、俺と血の繋がりがある。そして兄貴は俺にだけ、優しい。
差し出された朝食を食べていて、ふと思い出したことを尋ねる。
「………ハヤ、は?」
「昨日の夜から帰ってない。」
酷く冷たい声が帰ってきた。ハヤはこの家に居候している俺と同じ高校に通う同級生だ。そして頭がイカレた不良でもある。
ハヤは学校で俺のことをイジメというかパシリにしていた。その所為か、兄貴は奴のことを視界にすら入れようとはしない。
別に俺は気にしていないのに。
だからって、俺も好きでは無いからいないならそれでいい。
無言で朝食を食べることを再開した。
兄貴が大学に向かうと言って席をたつ。
家には誰もいなくなった。俺だけだ。学校に通わない俺を静かすぎる家が歓迎しているようで、静かに息を吐いた。
ハヤの所為で俺は学校に通わなくなった。ハヤの所為であまり喋らなくなった。ハヤの所為。全部。
全部ハヤの所為にして、俺は好きな事をする。ハヤの居場所が全部無くなって、俺のところに戻ってくればいい。
ハヤの借りの保護者として死んで、この家に居候をと遺書を残したのは誰だったか。
全部を母の所為にして、母の居場所を全て奪って、母を手に入れた。そんな俺の父親だった気がする。
俺をその父親とそっくりだというのは、今の父親だ。
だったら俺もハヤを手に入れられるなと思った。別に好きなわけじゃない。手に入れたいと思ったから。
俺は何かがおかしいまま、笑った。ハヤの笑い方を真似して笑った。
「…………ハヤ。」
小さな呟きは静かな家に響いた。