リビングに入ってきた兄貴は、覚束ない足取りだった。
「………兄貴?」
「あん?」
「…………………………兄貴?」
「あんだよ?」
これはおかしい。俺が兄貴に話しかけて返事があった事なんて覚えている限り全く無い。
自分で言って悲しくなった。
体に負担をかけるように重くなった心臓を押さえていると、キッチンに兄貴が入ってきた。
「………………飯は?」
「は?」
酒臭えなと思った瞬間、兄貴の顔がドアップになる。
「めーし」
「…ッ!…分かったから離れろ!」
はーいなんていつもの静かで大人っぽい雰囲気はどこに言ったのやら。酔っているというのは理解できたが、それであれだけ性格が変わるなんて信じ難い。
あの厳格なようで優しくて、兄貴らしい兄貴がソファーに横になって飯と連呼している。
しかもだ、いつもなら口をきくことどころか目も合わせない癖にはっきりと返事をして俺の半径1メートル以内に入ってきて、それに飯まで作れと言う。これはもうドッキリか別人なのではないだろうか。
1人キッチンで悶々としている間も飯コールは続く。
これはもう、
「………作るしかねえよな。」