親友のお兄さんを紹介されました。 | ナノ

 僕は、争い事があまり好きではない。


「だからよぉ、俺たちお金なくて困ってんだよねー」
「貧しい俺らに恵んでくれよー」


 下卑た笑みを浮かべ聞き苦しい笑い声をあげる数人の男子。不良、と言うのだろうか。赤信号みんなで渡れば怖くない、という言葉があるように集団でしか悪いことをできない弱虫たちの集まりだ。
 所謂これはカツアゲで、僕なんかは格好のいいカモなのだろう。




「お断りします」
「あァ? ナメてんのか」

 胸倉を掴まれて首元が少し苦しい。当の本人はガンをつけた顔を近付けているのだが、好きでもない人に必要以上に近付かれるのが好きではない僕は不快感に顔をしかめる。


「大人しくお金渡してくれれば悪いようにはしねえからさー」
「…君たち、2年生?」
「あ? だったら何だってんだ―」
「そうか、じゃあ僕が先輩だ」
「は?」

 僕の胸倉をいまだに掴んで離さないその男子に、額を思い切り打ち付ける。潰れた蛙が出すような悲鳴を出したその男子は、額を抑えてうずくまっている。驚く他の男子を見て、僕石頭なんだよね、とにっこり笑ってやった。



「年上の人には、敬語を使わないとね?」
「ふっ、ざけんな!」
「おっと、いきなり殴りかかるなんて危ないなあ」
「そっちから手出したくせに何言ってやがる!」
「先に僕にちょっかい出してきたのは君たちだろう?」


 殴りかかってきた男子をひょいとよけて、皺になったらどうするのさ、と胸倉を掴まれて歪んだ制服を正す。額を抑えていた男子が立ち直ったのか、ふらついてはいるが変な声をあげて僕に襲いかかってきた。懲りないなあ、とその拳が到達する前に鳩尾に拳を入れる。吐きそうな呻き声を上げた男子は、そのまま腹部を抑えて口からだらしなく涎を零したまま崩れ落ちた。



「あーあ、きったないなあ」
「おまえ…何なんだよ…!」
「何って言われてもなあ…ああそうだ、聞きたいことがあったんだ」


 さっきの威勢はどこへやら、怯えるように冷や汗を垂らす彼らに近付くと後ずさるように怯えた声を出した。まあ無理もないか、と地に伏した男子を見やる。そのまま気絶してしまったらしい。そんなに怖がらなくてもいいよ、と浮かべた笑顔さえ彼らにとっては恐怖なのだろう。
 だから僕はやさしく、聞いた。



「長曾我部元親って、知ってる?」


 一方その頃教室では、慌ただしく走ってきた慶次が教室の扉を大きな音を立てて入ってきたかと思うや否や、よっぽど走ってきたのか息切れを起こしている。それまで携帯を弄っていた元親は、そんなに慌ててどうした、と慶次に問う。慶次は息を整えてから、興奮冷めやらぬままこう言った。




「元親! 大変だ!」
「おう、どうした慶次」
「いや、なんか見慣れない人がいたからたぶん編入生じゃないかって噂になってんだけどさあ!」
「ああ、それたぶん俺の兄貴だな。今日来る予定だったんだよ」



 携帯に届いた兄貴からのメールを見返し、やけに遅いと思ってたんだよな、と元親は呟く。しかしそれを聞いた慶次は尚更慌てる。


「本当かい!? 大変だよ! 何でも、不良っぽいグループに絡まれてるの見た奴がいたらしいんだ!」
「…早く行ってやったほうがいいな」
「ああ、もしかしたらもう何かされてるかも―」
「いいや、俺が心配してるのはそっちじゃねえよ」
「え?」
「まあいいから慶次も来いよ。来りゃわかるさ」


 意味深に笑った元親の意図が掴めなくて慶次は首を傾げたが、早くしねえと置いてくぞ、と歩いて行く元親に慌ててついて行くのだった。そして慶次は、自らの目でその意味を知ることになる。




「…ふう、こんなもんかな」
「早い到着じゃねえか、アーニキ?」
「ああ、元親。久し振りだな」
「おうともよ! しっかし、今回はまた派手にやったなあ」
「向こうからちょっかい出してきたんだからしょうがないだろう?」
「なっ…」


 元親が親しげに話すその人が元親の言う兄、なのだろうが、慶次の目に飛び込んできたのは完璧に伸びた不良共の近くで掠り傷ひとつなく立っていた姿だった。不良共とされる奴らといえば気は失っているようだが、特に目立った傷はみられない。
 驚く慶次を見て、だから来りゃわかるって言っただろ?と元親は笑う。



「これっ、どういう…」
「ああ、兄貴は見た目のせいでよく絡まれてな」

 いつの間にかそれを対処するようになってたら、喧嘩もすげー強くなっちまったってわけだ。まあ慶次や俺はただの喧嘩だけど、兄貴は喧嘩になる前に相手を気絶させて終わらすからな。
 何でもないことのように話す元親に、慶次は開いた口が塞がらない。元親の兄であるという彼と目が合って、慶次はハッと意識を戻した。


「元親のお友達? はじめまして」
「えっ…あ、はじめまして」
「ああ元親、職員室の場所を知りたいんだけど」
「ああ、いいぜ。慶次も行くだろ?」
「あ…うん」

 なんか悪いね、と慶次に言う彼にふるふると首を振って、元親の横に並んで歩く。職員室に着くとちょっと行ってくるね、と入って行った彼を廊下で待ち、なあ、と小声で話しかけた。



「お兄さんが危ないとは思わなかったのかい?」
「ああ、それはねえな」
「どうしてだい?」

 不思議そうにする慶次に、ニヤリと笑って元親はこう言った。




「だって俺、喧嘩で兄貴に勝ったことねえもん」





fin.

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テーマ「人外ファンタジー」
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