たいせつなもの(とっくに気付いていたはずのそれに、今手を伸ばしてみるんだ) | ナノ

 ずっと一緒にいるのが当たり前だった。だから、気付かなかった。当たり前に傍にある、その存在の大切さを。




「よろしく頼んだぞ」
「はいはい、しっかり持ち場をお守りしますよ。かすがは謙信様の傍にいらっしゃいな」
「あと慶次もな」
「わかったって。じゃあ後程」


 突然の敵襲にも落ち着いてかすがちゃんが指示を出す。かすがちゃんとやり取りを終えたあんたが、さあお仕事だよ、とみんなに声をかける。
 絶対に無理をしないこと、不利になったら助けを呼ぶこと、間に合いそうになったら退くこと。君たちの犠牲は誰も望んじゃいないんだからね、いいかい?
 そう言うのは最早日常だ。仲間を誰よりも大切にする、その姿勢が俺は何より好きだったしみんなも憧れていた。
 みんなが歓声のように返事をすると、よし、行こう! とのあんたの言葉を合図に散る。



「じゃあ俺は右に行くから、慶次は左に」
「…ん、ああ」
「大丈夫かい? ひと暴れしたがってる顔ではないね」
「…いや、大丈夫だ。何でもないさ」
「そうかい? くれぐれも無理は禁物だよ」

 言いかけたその言葉を、飲み込んで首を振る。
 言いたいことがあるんだ、なんて、今言わなくてもいいじゃないか。いや、今言ってしまったら、むしろ。…やめよう、こんなことを考えるのは。
 本当に大丈夫かい? と見つめてくるあんたの顔を見るだけで、こんなにも俺は幸せなんだから。


「…これが終わったら、一杯付き合ってくれよ」
「ああ、一杯と言わず慶次が満足するまで付き合うさ」


 それじゃあひと暴れしてくるかなっと! あんたより先に駆けて、何時もの3倍ぐらいは勢いが出てたんじゃないかと思う。
 慶次さん気合い入ってますね! と言う兵士の声に、まあね! と返して敵陣に突っ込んで行く。あっという間に制圧したので早くあんたに会いたくて、あんたのいるもとへと走った。



「よう、まあだやってんのかい?」
「おや慶次、調子は戻ったみたいだね」
「俺は最初っからこの調子だよ!」
「はは、元気そうで何より、だ!」


 背中合わせで闘いながら会話を交わす。俺は自分から突っ込み、あんたは無謀に突っ込んでくる敵を的確に仕留める。と言っても、殺しはしない。相手が動けない程度にしか攻撃を喰らわせないのは戦闘員としてはダメなところだろうが、俺はあんたのそういうところが好きだ。

「よし、片付いたね。そろそろ行こうか」
「ん…っ、危ねえ!」
「え?」


 あんたの後ろに敵が立っているのが見えて、まさに襲い掛かろうとしているところだった。とっさに前に出て敵を蹴飛ばす。あんたに予め攻撃を喰らわされていたんだろう、そのまま気絶したのを確認して息を吐く。
 急いで振り返るも、へらりと笑ったあんたに怪我はないようだ。今回ばかりは敵に本気でかからないあんたに説教せねばなるまい。



「いやー、危なかったねぇ」
「………」
「…慶次? っわ、」


 たまらずあんたを抱き締めた。俺よりも細くて華奢な身体はすっぽりおさまって、俺の胸あたりでくぐもった声を出す。そのままあんたの身体にすり寄るように顔を寄せ、心音を確かめる。あんたが俺を呼ぶ声が聞こえたけれど、そんなの構ってらんねえ。もう一度しっかり抱き締めて、首筋に顔を埋めた。



「……あんたが、死ぬかと思った」
「ああ、さっきの。大袈裟だなあ」
「俺が、心配なんだよ」
「そんなに心配しなくても」
「もー、ほんと勘弁してくれよ…」


 こっちは気が気じゃねえんだ、と耳元で呟く。今までそんなことなかったじゃないか、とあんたに返されてうっと言葉に詰まる。
 だって、今まで俺の傍にはあんたがいて、それはこれからも続くと思っていたのだ。当たり前のように。でも、今回のことで身にしみた。いつまでも一緒にいられる確証なんかないんだって。俺も、あんたも。


「ところで、俺はいつまでこのままでいればいいのかな?」
「もう暫くこのまま! 心配させた罰だよ!」
「おや、これは手厳しい」


 それにずっとあんたに言いたかったことがある。これだけは、今どうしても言いたかった。口元に指を寄せて綺麗に笑うあんたを見つめて、言葉に紡ぐ。




「俺、あんたのこと―」





fin.

夜風にまたがるニルバーナ
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