+02 | ナノ

 俺は、もうずっと幼馴染みに恋をしている。

「ほら、起きろ」
「えーあともうちょっと…」
「朝練に遅刻したら困るのはお前だろうが」
「あーわかったわかった起きるって…」




 高尾和成。こいつの幼馴染みを俺はもうずっとやっている。ガキの頃から一緒で、それは勿論今までも。
 朝が弱いこいつを起こすのは最早俺の日課で、こいつを起こした後に一緒に学校へ向かう。昔は大して気にしていなかったが、どうもこいつは朝が弱いらしい。
 まだ小さい頃にこいつを起こそうとそれは子供ながらに可愛らしく揺すってみたのだけれど、こいつは起きなかった。そのことをおばさんに伝えると、こうすればいいのよ、と言って頭を勢いよく叩くもんだから俺は度肝を抜かれた。その後眠たそうに目を擦りながらのそのそと起き上がったこいつを見てから、俺の起こし方は少々乱暴的である。


「つーかいつも叩くのやめねえ?」
「叩かなきゃ起きないお前が悪い」
「あ、ちょっとこっち来て」
「? 何だよ」
「ほら、いつものアレ」
「あー…もういいって」
「いいからほら、じゃないと俺動かねえよ?」



 ベッドに座ったまま両腕を広げて憎たらしく笑うこいつに溜め息を吐いて、ゆっくり近付く。少し屈むとすぐに腕を背中に回され、一気に距離と距離が近付く。もうそんな歳じゃねえだろ、と何度も言うのだがこいつは聞かない。
 これが俺らにとって起きたことの合図。これをした後にはいくら眠かろうが動く約束である。律儀に交わされてきたこの儀式は、こいつに抱く感情に気付いてしまった俺としては心臓に悪い。



「ほら、もういいだろ。離せ」
「はーいはい、んじゃ着替えっかねー」
「さっさとしろよ」
「わーかってるって」

 準備を始めるであろうこいつを背にして部屋を出る。下に降りると気付いたおばさんが珈琲を淹れてくれていて、いただきます、とご好意に甘えてそれを啜る。いつもごめんねー、と笑うおばさんに、幼馴染みですから、と返した言葉は自分に言い聞かせるためでもある。


「終わったぜー」
「ん、早く飯食え」
「え、いいよ。腹減ってないし」
「バカ、お前ただでさえハードな運動すんだから入れとけ。せっかくおばさんが作ってくれたんだぞ。それに朝飯は頭を働かすんだから」
「わーかったわかった! 食えばいいんだろー?」



 箸を取って食べようとしたこいつの手を叩いて、いただきますは? と言うと、いただきまーす、と拗ねたような声が聞こえる。よし。
 よしって何だよ、俺は犬かってーの。
 こんな手間のかかる犬いらねえ、あと食いながら喋るんじゃねえ行儀悪い。
 飲み込んで口を開きかけるこいつに、無駄口叩くぐらいなら早く食っちまえ、と言うと俺をじと目で見ながら咀嚼する。それを気にもとめず珈琲を啜ったところで、おばさんの笑い声が聞こえた。



「なーに笑ってんの」
「だって、あんたが弟みたいだから」
「えー、俺のほうが身長高…いだっ、」
「身長のことは言うなって言ってんだろうが」
「なにー? 俺にあっさり抜かれたから気にしてんのー?」
「…もう起こしてやんね」
「ああっ、嘘うそ! 冗談だから! それだけは勘弁!」


 お前に起こしてもらえなかったら俺朝起きれないんだって! と手を合わせてくるこいつに、一言多いんだよ、と呟く。つまり、明日からも起こしてやる、という意味だ。普通の人にはわからないかもしれないが、もうずっと一緒にいるこいつには簡単に意味が通じるわけで、さっすがー愛してる! と抱き付いてきたこいつに焦って離せと叫ぶも、照れんなってー、と顔をぐりぐり胸元に押し付けてくる。やめんか! と拳を落としたところで、仲良しねえ、とおばさんが呟いた。



「いいから歯磨きしてこい」
「えーでも真っ赤なお前面白くて離したくねーなあ」
「もう一発いっとくか?」
「わーかったって! すぐ行くから靴履いて待っとけよ」
「早くしろよ」


 いってきます、とおばさんに挨拶をして玄関に向かい靴を履く。
 先程の感触を思い出して、もう何度目だかわからない溜め息が漏れた。あいつにとって俺はただの幼馴染みで、それはこれからも変わらなくて。あいつが言う好きは俺の好きとは違って、それでもあいつに言われると嬉しくて、あいつが触れたところは熱をもったみたいにじんわり熱くて。


「おっまたせー…何やってんの?」
「いや、バカだなって思ってただけだ」
「ばっ…ひどくね?」
「酷くねえよ。行くぞ」
「あ、ちょっと待てってー」

 こんなバカを好きになっちまった時点で、俺も大したバカなんだって。





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