*02 | ナノ
さすけに抱っこされたまま声のしたほうを見ると、知らない男のひとが立っていた。
「おお! 貴殿がお館様の…」
「おやかたさま?」
「お父さんのことだよー」
「おとうさんで、たいしょうで、おやかたさまなの?」
「うーん、あだ名みたいなものかなー」
俺が君を若って呼ぶようにねー、とさすけが説明してくれたけど、おれにはよくわからなかった。
首をかしげたおれに、好きなように呼んでいいんだよ、と言われて、ひとつずつ口にだしてみた。おとうさんは言っていいとはいわれたけれど言わないつもりだったし、たいしょうはちがう。
「…おやかたさま?」
「お、呼び方はそれで決まりかな?」
「おやかたさま!」
「俺のことはなんて呼んでくれるのかなー?」
「さすけ!」
はあい、ってやさしく返事をしてくれたからおれはうれしくて何度も口に出していた。さすけになでてもらうと、こんどはやさしくてきもちいい。そこまでたって、おれはからだを捻って男のひとのほうをみた。
「…なんていうの?」
「む、紹介が遅れて申し訳ない。真田幸村と申す」
「…ゆきむら?」
「うむ」
「ゆきむら!」
ゆきむらはさすけとはちがうしゃべり方だったけど、やっぱりさすけと同じように呼ぶたびに返事してくれるのでおれは何度もさけぶように呼んだ。
おお! と手をグーにしておれと目をあわせるように返事してくれるゆきむらが、楽しかったのだとおもう。
「おお、すっかり仲良くなったようじゃな」
「お館様!」
「おやかたさまー!」
「ああ、大将。おかげさまで」
俺としては子犬を拾った心境ですけどね。とさすけが言うので、おれいぬじゃないもん! とぽかぽかさすけをたたくと、はいはいごめーんね若、とやさしく頭をなでてくれたのでおれはひとこと、ゆるす、とだけ言ってさすけのむねにぐりぐりとあたまをおしつけた。
かわいーなあもう! と言われてだきしめられたのはちょっとくるしかったけど。
「あのね、おれね、おやかたさまってよんでいい?」
「おお、良いぞ。好きに呼ぶがいい」
「おやかたさま!」
「お館様!」
「おやかたさまー!」
「うおやかたさまあああぁ!」
「おやかたさまあー!」
まったくもう旦那まではしゃいじゃってさー、とさすけはおれをおろしてくれたので、そのままおやかたさまのところまではしっていく。
あぐらをかいたおやかたさまにうしろからだっこされて、かたーい! とさけぶとおやかたさまはおおきなこえでわらった。ゆきむらのおなかをさわったらかたかった。
「かたーい!」
「若殿ぉー!」
「ゆきむらー!」
おやかたさまとさすけはわらっていて、おれもにひーとわらった。
みんながわらうとたのしくていいな!
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