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「…なんや今日やけに騒がしいな」
「ああ、一氏先輩の誕生日やからな」
「…マジか」
「マジや、大マジ。お前知らんかったんか?」
「や、名前は知っとったけど…そうか、ならちょうどよかったわ」
「何か持ってきたんか?」
「昨日作りすぎて菓子余ってしもてん」
「女子か」
「うっさいわ」


 水月とそんな会話を交わしながら、バッグに忍ばせたその存在を確認する。大丈夫や、割れてへん。財前なら誕生日プレゼント持ってくやろうし、そん時一緒にお邪魔しよ。




「あ、財前一氏先輩に誕生日プレゼント渡しに行くやろ?」
「…お前、知り合いやったっけ」
「いや、知らん。知らんから会いに行こかな思て」
「何やそれ。…まあええわ」


 会話が面倒になったのか、ラッピングされた袋を持つ財前の後ろを歩く。…財前みたいにちゃんとラッピングしてないんやけど、大丈夫やろか。まあ、ないよりはええか。



「お、財前やん。どうしたん?」
「どーも。…コレどうぞ」
「お前、誕生日おめでとうの一言も言えんのか」
「恥ずかしいだけやろ」
「うっさいっすわ」
「…まあ、おおきに」



 財前の会話から一氏先輩が誰かはわかったが、残りの人が誰かさっぱり分からへん。名前しか聞いてへんからな…見るからに濃い人らってのはわかったけど。突っ立ってその光景を見ていると、兄貴と目が合った。あ、何か嫌な予感。


「何やお前来とったんか! 俺に会いたくなったんか?」
「触んな、大体用事があるん兄貴とちゃうし」
「えっ何白石の弟!?」
「蔵リンよりも目おっきいわねえ〜女の子みたい!」
「弟がいるのは知っとったけど、白石全然紹介してくれへんからなあ」
「当たり前や! お前らなんかに紹介してたまるか」




 俺の次にかわええ弟やからな! と後ろから俺に抱きつきながら言った兄貴に、うわあ、と財前がゴミを見るような目つきで漏らした。財前それ俺の台詞やからな。
 めんどくさいので兄貴をひっぺがすと、照れんでもええのに、と兄貴は微笑んだ。兄貴のポジティブさにはいっそ恐怖すら感じる。



「白石部長に用事がないのはほんまですわ。用事があるん、一氏先輩ですから」
「は、俺?」
「あ、一氏先輩。初めまして」
「おお、えっと、白石…でええんか?」
「ちょい待てユウジ。俺も白石や」
「せやかてこいつも白石やろ」
「せやけどお前、弟くんの下の名前教えてくれへんやん」
「当たり前やろ、俺の可愛い弟を気安く呼ぶなんて言語道断や」
「ちょっと兄貴黙ってうっさい」


 反抗期や…! と大袈裟なポーズをとる兄貴を無視し、目的の物を確認する。大丈夫だ、割れてない。
 手ェ出してもらえますか、と一氏先輩に言って、男のわりには細い…まあ俺も他人のこと言えんのやけど。その手に菓子の入った袋をちょんと置いた。



「一氏先輩今日誕生日なんですよね? おめでとうございます」
「ああ、おおきに」
「大したもんやないんですけど。食い物ですんません」
「おいちょっと待て俺は聞いてへんぞ」
「なんで一氏さんにプレゼント渡すのに兄貴にいちいち聞かなあかんねん」
「俺にはくれんかったくせに…!」
「ガキか」


 泣き真似をする兄貴は千歳さんが頭を撫でて慰めてくれているようなので、それに甘えて無視を決め込むことにした。
 千歳さんありがとうございます、今度トトロの何かあげますわ。
 当の一氏先輩といえば、菓子を手にしたまま突っ立っていた。…あれ?



「…もしかして甘いもん嫌いでした?」
「ああ、いや、まさか貰えるとは思わんかった」
「まあ、兄貴がいつもお世話になっとるみたいですし…俺、一氏さんにも興味あったんですわ」
「は?」
「物真似、得意なんすよね?」
「…あ、ああ、物真似な!」


 一氏先輩がポカーンとしたような気がしたけど、俺の気のせいやろか。まあ初対面の人間にここまでグイグイ来られたらちょっとは引くやろな…と思ったけど、笑ったその表情は見た目のイメージと遠く柔らかかった。



「めっちゃ似てるって聞いたんで一回見てみたくて」
「そうやな、お前の兄貴やったら…んんーっ、絶頂! …とか」
「あっははっ、めっちゃ似てる! きもっ!」
「おいお前お兄様にその言葉はないんちゃうか」
「いやもう気持ち悪いわほんま。こっちがむしろ本物やん。兄貴が偽物でええわ」
「…泣くで?」



 本気で泣いたことないくせに、と吐き捨てると、相変わらず白石には厳しかねー、と千歳さんが笑った。…ほんま、ただのテニス部とは思えんぐらいイケメン揃いやな。いや、実際ただのテニス部やないと思うけど。




「いやーでも実際会えて良かったですわ。イケメンですやん」
「…お前に言われてもお世辞にしか聞こえんなあ」
「ははっ、まったまたー」
「そん子は自覚なしやけんねー」
「…まあ、白石みたいな兄貴持ったら無理もないわな」


 何やろ、何故か知らんけどもしかして俺同情されとる?
 首を傾げると、一氏先輩にぽんぽんと頭を叩かれた。あ、気持ちええ。
 何勝手に触ってんねん、お触り禁止や! とかほざいた兄貴に黙れと一際低い声で呟いたら、傷ついた。あー俺傷ついたで…とめそめそし出した。うっざ。



「あ、一氏先輩メアド教えてくださいよ」
「俺のでええんか?」
「一氏先輩のがええんです。」
「お兄ちゃんは許さへんからな!」
「あ、ならお前の誕生日も教えてくれや。俺も誕生日プレゼントやるわ」
「え、一氏先輩から貰えるんですか?」
「当たり前やろ。あと一氏先輩っての気持ち悪いから、ユウジでええわ」
「あ、じゃあユウジさんで」
「…まあ、合格やな」




 部活とかあるからあんまり返せへんかもしれんけど、堪忍な。
 あ、全然暇な時でええっすよ。
 おおきに、なるべく返すようにするわ。
 再び俺の頭を撫でたユウジさんに煩く騒ぎ立てた兄貴を見て、財前が大きく溜め息を吐いた。





fin.

Happy birthday to Yu-ji !
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