L.O-brother | ナノ

「御用ですか、お兄様」
「ああ、よく来たね。おいで」
「…ご用件は」
「そんなに慌てるなよ。いつまでも突っ立ってないで、そこに掛けなさい」
「…お兄様、」
「お願いしてるんだ、わかるね?景吾」



 声のトーンが変わったことに溜め息を吐いて用意された椅子に座ると、よろしい、と座っていた椅子から立ち上がり紅茶を淹れる。なぜか俺と二人だけのこの部屋では、メイドにやらせることなく自分で淹れるのだ。ゆえに、今この部屋には俺と彼の二人しかいない。
 変なことを考えるものだ、と常々思う。…正真正銘、血の繋がった俺の兄だ。


「景吾の口に合うかな」
「何を言うかと思えば…あなたが淹れてくれる紅茶より美味しい紅茶を俺は飲んだことがありませんよ」
「ふふ、ありがとう。久し振りだからね」
「…ええ、そうですね」
「そう。久し振りだから、その喋り方もやめてくれないかな?」



 口調は柔らかいが、声のトーンといやに強い笑顔がそれを物語っている―敬語を解け―と。俺はこの笑顔に勝てた人を知らない。…身内すらでも、だ。


「こんなところに呼び出しといて一体何の用だ」
「そうそう、そうこなくっちゃ! 自信たっぷりで偉そうな景吾を崩すのが俺の楽しみだからね」
「悪趣味な…」
「何とでも言いなさい。愛する弟に何を言われたところで、猫に舐められた程度にしか思えないよ」




 それを言うなら、飼い犬に噛まれた、じゃないのか。と口にするだけ無駄なことは俺の経験上だ。実の兄にこんなキザな台詞を吐かれるのも、もう慣れた。
 この笑顔に大抵の人間が騙されることも、俺は知っている。そういう、人間なのだ。…まあ、嫌いではないのだが。



「ああそうだ景吾、今日は誰かに会ったかい?」
「メイドになら会ったが」
「なにか話した?」
「挨拶程度だな。それがどうした」
「ああ、良かった。ちゃんと言い付けを守ってくれたようだね。はい」
「…何だ、これは」
「何って、プレゼントだよ。誕生日おめでとう」
「…あー……」




 今日が誕生日だって忘れてただろ? と笑う彼。確かに忘れていた、忘れていたのだが―これがプレゼントか? と大量に山積みされたラッピングされた箱、袋、今にも雪崩を起こしそうなそれを怪訝そうな顔で指差すと、全部景吾のものだよ、とティーカップを持ち上げて優雅に微笑みやがった。俺はわざとらしく溜め息を吐く。


「限度ってもんがあるだろ…」
「いやあ、景吾が欲しいものと俺があげたいものを集めたらこんなになっちゃってね。あ、いらなかったら捨てていいよ」
「…一気に大量のゴミ増やしてどうする。捨てねえよ」
「…そういうところが景吾らしいねえ。まったく妬けちゃうよ」
「は? 誰にだよ」
「景吾に好意を寄せるすべての人間たちに」



 でもまあ関係ないよね、だって景吾の一番は俺だもの。だって俺が一番景吾を愛しているんだから、当然だろう? と言う彼は案の定笑顔だ。
 なんでも、俺に一番に誕生日おめでとうと言いたいらしく、メイドや使用人たちにも口止めしていたらしい。…こんな早くから呼びつけられた理由も合点がいった。


「今日は部活はあるのかい?」
「あるに決まってるだろ。それどころか学校も普通にある」
「そうか、じゃあ袋をたくさん持っていかないとね。きっとたくさんの誕生日プレゼントを貰うだろうから」
「で、処分すんのか?」
「…さあ、どうだろうね? 見てから決めようか」



 だからきっと全部持ち帰るんだよ、景吾。
 …察しのいい奴はわかるだろうが、絶対ひとつ残らず持って帰って来い、という意味である。わかってる、と一言洩らせば満足げに微笑む彼の表情は誰が見ても惚れる絶世の青年なのだろうが、その笑顔の真意を知っている俺には効果はまるでない。…もっとも、勝てるとは思っちゃいないが。




「話は終わりか。俺は寝る」
「ああ、待ちなさい。景吾」
「…まだ何かあるのか」
「ほら、寝るんだろう? ここで眠りなさい」
「…は、」


 そう言って彼はベッドを軽く叩いた、促すように。大前提として言っておくが、ここは俺の部屋ではない。つまり、このベッドは俺のベッドではない。
 眉間に皺を刻めて彼を見やると、ああ、心配しなくても時間になったらちゃんと起こしてあげるよ、とアラームをセットしている。違う、俺が言いたいのはそうじゃねえ。



「…ったく、強引な奴め」
「はいはい、文句を言う暇があったら早く寝なさい。つらくなるよ」
「…ん……」

 こうして頬を優しく撫でられたり、髪を指で梳かれたり、頭を優しく叩かれたのはいつぶりだろうか。言いたいことはもっとあったのに、意識が薄れて行く。そのまま目を覆われて、俺は深い眠りに落ちた。



「おやすみ、景吾。いい夢を」

 額に落とされた、柔らかい熱の感触に震えながら。





fin.

Happy birthday to Keigo !
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