つまるところ。 | ナノ

 朝。鳴り響く目覚ましを手探りで掴み、止める。もぞもぞと布団を這い、顔を出すとカーテンの隙間から木洩れ日が差し込んでいた。手元の携帯で時間を確認したところで、ドアを叩く音がしたので寝起きの声で返事をする。


「…んあー」
「お、起きとった。おはようさん」
「…今起きた」
「みたいやな。可愛い声しとるわ」
「朝からんなこと言うのやめろ気色悪い」



 素直やないなあ、と囁くような低音ボイスでドア越しに話しかける忍足に誰か通訳を頼みたい。
 もう朝食出来とるらしいから一緒に行こうや、待っとるから。と言われ、おー、と曖昧に返事を返す。
 すべての準備を済ませ出ると、髪を一房掴まれ嗅がれる。ええ匂いすんなあ、と耳元で囁かれ鳥肌が立った。触んな! と離れても忍足は何が楽しいのか微笑んでいる。気色悪い。




「おや、おはよう。今日も相変わらず仲良しさんだね」
「やめて寮父さんマジねーからそういうの」
「堪忍なあ寮父さん、コイツ照れ屋やねん」
「照れてねえしお前は理解力に問題ありすぎだ帰れ」
「俺とお前の愛の巣に?」
「俺とお前がいつ愛を育んだ! いちいち言うこと気色悪いんだよ!」



 席についたのも束の間、胸倉を掴んで叫んでいると、忍足がそのまま俺の背中に手を回し抱き込んできた。慌てて離れようとするも帰宅部の俺がテニス部の忍足にかなうわけもなく、離せ変態! と喚くと、変態やなんて酷いなあ、傷付くわあ。と言われ耳にふっと息を吹きかけられたので衝動的に身体が跳ねた。耳を抑えながら忍足を睨むと、敏感やなあ、と笑っている。…死にさらせ。




「はいはいそこまでー。君たちがラブラブなのはわかったから早く食べてしまいなさい」
「ラブラブじゃねえっ!」
「はいはい、スキンシップね。ほら、忍足くんも早く離してあげなさい」
「寮父さんに言われたらしゃあないなあ」

 やっと訪れた解放感と、寮父さんが用意してくれたカフェオレを飲んで息をつく。おいしい? とにこにこしながら聞いてくる寮父さんに頷きながらクロワッサンを口に運ぶ。相変わらず寮父さんに見られてはいるが、気にせずに俺は口を動かす。なんでも俺がおいしそうに食べるので、見てて飽きないのだとか。だって本当においしいんだもんなあ。



「そういえば忍足くん、どうだい? 新しい朝の気分は」
「え、どういう意味?」
「忍足くん、今日誕生日なんだよ」
「へえ」
「冷たいなあ」
「誕生日オメデトーゴザイマス」
「気持ち籠もってへんわ…」

 籠めたつもりもねーからな。
 相思相愛やと思っとったのに、愛してんのは俺だけやったんか…悲しいわ。
 うん、何も否定するところがない。悲しみのあまりセクハラしてしまいそうやわ、と言われて慌てて誕生日おめでとういい日になるといいね! と早口でまくし立てる。おおきに、と笑った忍足は、まあんなことせんでもお前にセクハラはさせてもらうわ、とか言いやがった。…くたばれ。



「ほらほら、食べたならさっさと歯磨いておいで。遅刻するよ」
「俺はまだだもーん」
「何言ってるんや、一緒に行くに決まっとるやろ」
「は? 俺まだ一緒に行くなんて言っ…ちょっと待て忍足引っ張るな! 制服伸びる!」
「なら抵抗すんなや」
「…チッ」




 半ば引きずられるように忍足に連行される俺を、行ってらっしゃい、と笑顔でひらひらと手を振る寮父さんに俺は脱力したまま行ってきますと返すのだった。


「えー、じゃあ侑士に一番に誕生日おめでとうって言ったのお前なのかよ」
「不本意ながらそうなるな」
「プレゼントは何やったんだ?」
「んなもん用意してねえよ」
「は? 知らなかったのか?」
「興味がない」
「ああ、身体で払ってくれればええわ」
「誰かこいつ逮捕して」
「大丈夫だ、お前にしか被害はねえ」



 俺に被害ある時点で大問題だよバカヤロウ、と跡部に訴えたところで何も変わらないのはわかっている。大体誕生日プレゼントやるかやらないかは俺の自由だろ。
 ほんなら俺がお前をヤるかヤらへんか自由やんな?
 おい変換おかしいぞお前それ以上近付くな気色悪い。思わず跡部の腕にしがみつく。
 間違ってへんよ、跡部なんかに抱き付いて俺を妬かせようとしとるん? ほんま可愛いことしてくれるわ。
 近付くのやめるか会話をするかどっちかにしろ!
 俺と忍足に挟まれた跡部は心底うざったそうな顔をしていた。



「もうやだ俺帰りたい」
「俺は別にええで? 帰っても。俺らの愛の巣、」
「言わせねーよ!?」
「え、今侑士下ネタ言おうとしてた?」
「こいつの存在自体が下ネタだ」
「…へえ、言ってくれるやん」
「な、なんだよ」
「あんまり言う子にはお仕置きせんとなあ」
「なっ、ちょっタンマ!悪かった! 俺が悪かったから謝るちょっと引き摺るんじゃねええぇ」
「あー楽しみやなあ」




 地雷を踏んだ俺の抵抗なんてもろともせず、忍足は俺の腕を掴みさっさと進む。諦めろ、と言った跡部の横で合掌した岳人たちを目に俺は絶望した。覚えてろよテメーらアアァ!



「あーあ、アイツ死んだな」
「無視しとけばいいのに、いちいち反応するから面白いんだよなアイツ」
「…フン、くだらねえ」





fin.

Happy birthday to Yu-shi !
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