doubt=01 | ナノ

 “いじめ”の定義は、他人により決められるものではなく、被害者がされてると感じたらいじめらしい。…ただし、常識内での範囲だが。


「男のくせに謙也くんに近付くなや。気持ち悪い」
「ちゅーかゲイ? きんもー! ええ男紹介したろか?」
「ブサイクなやつなら好むかもしれんしなぁ!」


 やだそれなんて物好きー! という女子の言葉を合図に汚い笑い声が響く。さっきから汚い言葉遣いで俺に罵声を浴びせるのは女子だ。ていうかここ男子トイレだっつーの、女子のお前ら入ってくんなよ。



「ほら、何とか言えや」
「ショックで何も言えんのちゃう?」
「とりあえず君らは言葉遣い直した方がいいよ。聞くに耐えない、下品」

 俺の台詞を聞くやいなや、ざばぁっと降ってくる大量の水。あーあまた制服濡れたよ、と冷静に頭で捉えながらも張り付く服に嫌悪感を覚えた。女子たちは何か言うと去ったようだ。俺が溜め息をついて個室から出ると、壁に寄りかかるように財前が立っていた。



「今度は何やらかしたんすか」
「いやね、気持ち悪いんだって。俺のこと」
「謙也さんがゲイなのが耐えられんのとちゃいます」
「まあ一般人からしたら軽蔑されるからね」



 お前はどうとも思わねえの?
 先輩らに引け目感じとったら関わりませんわ。
 そらそうだ。水を吸って重たい服をズルズル引き摺るように前に出ると財前は気持ち悪いっすわと言った。そうだね色々な意味で気持ち悪いよ、俺含めて。


「水も滴るいい男ってやつ?」
「もうずぶ濡れやないすか」

 それもそうだな。財前から投げられたタオルを受け取ってせめて髪だけ拭いてみたがもう既にタオルはぐっしょりだ。そのまましっとりしたタオルで身体を軽く拭いてみるも拭いた気がしない。おまけに寒い。




「財前、悪いんだけど教室から―」
「先輩のジャージ、でしょ?」
「…さばけるなぁ、お前」

 一応個室に入って服を着替えると、量はそれほどなかったのか下着は無事だった。良かった、いくらなんでもノーパンは避けたい。財前から受け取ったジャージを装着して制服を絞るとまるで大きい雑巾のように大量の水が出た。それをジャージを入れてた袋につめて外に出る。



「謙也さんには言わへんのですか」
「…言ったところでどうにもなんないでしょ。まだ気付いてもないみたいだし」
「ずっとこのまま?」
「さあ? どうだろ」


 解決する必要はねんだよ、面倒なことはスルーが一番なんだって。…スルーが可能なレベルかそうでないかは敢えて言わないでおく。だからもうちょっと俺の世話頼むな、財前?
 …ぜんざい。
 わかった、明日な。



「あー早く家帰ってシャワー浴びよう」
「風邪引きますよ。…ああ、先輩って」
「…バカとか言うなよ?」
「自覚ありますやん」
「…ああ、もういいや」

 だから、俺と財前の背中を見つめるその人物の存在に気付けなかった。





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