‥09 | ナノ

「ご飯できてるわよ」
「ああ、ありがと。何か手伝うことない?」
「そんなのはいいから自分の準備しなさい」
「もう終わってるよ」


 皿に盛られたヨーグルトを食べながら母さんと会話を交わす。母さんの言う俺にとってのご飯というのはこれのみで、さっさと食べ終わってしまった俺は空になった器を母さんの立っている流しに置いた。



「あら雅治くん、早かったわね」
「朝練があるからのう。…それだけか?」
「昔から少食でね、この子。雅治くんのぶん、用意してあるから」


 テーブルの上には俺と違い、目玉焼きに厚めのベーコンそれにクロワッサンといった、普通なんだろうが俺からしたらとてもじゃないけど朝からいただけないメニュー。



「お前、垂れてるぞ。ちゃんと拭いてこいよ」
「ドライヤーで一気に乾かすからいいじゃろ」
「限度ってもんがあるだろ」


 ポタポタと髪を伝ってフローリングに落ちる雫。上はタンクトップでまだ制服は下しか穿いていないようだが、それでも染みができたらどうするつもりなんだ。貸して、と首に掛けられたバスタオルをひっ掴むと殆ど濡れていない、普通ならもうちょっとウェットなはずなのに。仕方なしにわしわしと仁王の髪を拭いていると、母さんのくすくす笑う声が聞こえた。




「…なに?」
「あなたたち、本当に仲良いわね」
「そうじゃろ? 兄弟じゃから」
「ちょっ…まだ濡れて、」

 まだ湿っている髪をぐりぐりと押し付けられ焦るものの時既に遅し。制服に着替えていなかったのがせめてもの幸いだ。もうとっとと髪乾かすから座れ、と俺はドライヤーまでする羽目になった。



「あーもう動くなって。じっとしてろ」
「寝てるからできたら起こしてくれ」
「寝るな!」


 ぺしんと頬を叩いてドライヤーを続行するが聞こえているのか否か、これから毎日頼むとするかのう、と言われて俺はげんなりした。朝起こすだけでなくドライヤーまでしろというのか…!
 溜め息をついた俺に、溜め息ついたら幸せ逃げるぜよ、なんて言いやがった。誰のせいだよ誰の。



「はい、終わり」
「あ、後ろも結ってくれ」
「おまっ…どこまで、」
「いいじゃろ? …自分の準備は済んどるんじゃし」

 …コイツは地獄耳か。仕方なく後ろの髪を結ってやったが、これわざわざ結う必要あるのか? 毛量も少ないし。


「そんなに暇なら朝練付いてきたらどうじゃ?」
「あら、いいじゃない。初日じゃ場所もわからないしね」
「ンなの人に聞けば―」
「ほら、早く準備しんしゃい。朝練に遅れるぜよ」




 …今日は厄日だろうか、それともこんな生活が毎日続くのなら厄年に違いない。仁王がご飯を食べてる間に俺は有無を言わさず制服に着替えさせられ、笑顔の母さんに送り出されながら仁王と通学を共にする羽目になった。





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