‥01 | ナノ

 俺の幸せは母さんの幸せ。母さんが泣いたなら俺は笑う。そこで俺が泣いたなら、母さんはもっと泣いてしまうから。共有できる涙なんていらない。俺の人生は、母さんの幸せのためにある。母さんが幸せではない人生なんて俺にはいらない。



「学校変わることになっちゃってごめんね」
「全然。バイト先に近いしむしろ大歓迎」


 そう言って笑うと母さんはありがとうと言い運転に集中する。母さんはもう何度目になるかわからない再婚をした。父さんは俺がまだ小さい時に亡くなったため、女手ひとつで俺をここまで育ててくれた。今は車で相手の家に向かっているところだ。



「向こうにもお子さんがいるらしいの。同い年のね」
「同校の同学年、ってわけね」
「同じクラスだといいわね」



 そうだね、と曖昧に笑う。心底そんなことは思ってないし相手の親子とも仲良くする気はないが、母さんの前でわざわざ相手との仲を険悪させるほどバカじゃない。だからといって再婚して欲しくないわけではない。母さんが再婚するのは幸せを求めてるからだし、そのためなら俺は母さんの花道は幾らでも作ってやる。


「もうそろそろ?」
「うん。この辺のはずなんだけど…」
「ここ?」
「…たぶん?」
「…でかいね」
「ふふ、そうね。嬉しい?」
「うん」



 他愛もない話をしながら、予め聞いておいた住所を打ち込んだカーナビを見ると目的地周辺を知らせるナビゲーション。着いた先は世間一般的には普通なのかもしれないが、今まで二人で細々と暮らしてた俺らにとってはじゅうぶんな大きさだ。別に貧乏だろうが裕福だろうが母さんが幸せそうなら何でもいいんだけど。俺と母さんとその他荷物を乗せた車はその敷地内へと入っていった。





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