☆10 | ナノ

「あー食った食った!」
「腹いっぱいたい」
「しかし千歳さんよう食いますね。やっぱりデカいだけありますわ」
「お前が細過ぎるっちゃなかと? 身長…は、」
「身長のこと言わんといてください」
「はは、すまん。ばってん俺からしたらこれぐらいがちょうどよかたい」



 ぽんぽん、と千歳さんに頭を撫でられ、千歳さんと比べんといてください、と言うと千歳さんは笑った。…なんか、ほんまに笑顔の似合う人やなあ。トトロに似とるっちゃあ似とるな、身長大きいし。これ言ったら千歳さんは喜ぶんやろか。
 何食ったらそんなデカなるんすか。
 …米かね?
 俺は今まで以上に米を食おうと決心した。


「あ、風呂の準備しとくんで千歳さんはゆっくりしとってください」
「俺もなんか手伝うたい」
「や、そういうわけにはいきませんて。お客さんですもん」
「ばってん、お世話になっとっとに何もせんとは申し訳なか」

 気遣わんでええですよ。
 よく考えたら手土産も持たずに来てしまったけん、その代わりに何かさせてくれんね。
 いや、元はと言えば兄貴が無理矢理連れて来たんですし千歳さんが気にすることは…
 まるで会話が進む気配がない。しっかりしとんなあ、兄貴にも見習って欲しいもんやわ。となかなか引き下がらない千歳さんに俺は溜め息を吐いてとうとう折れた。




「じゃあ、皿流しに置いといてもらってええですか?」
「…そんだけね?」
「あ、水につけとってもらえたら助かります」
「…他には?」
「思い付いたら考えますわ」
「…わかったたい」



 千歳さんはまだ納得が行かないようだったが、俺の言葉にカチャカチャと皿を重ね片付け始めたので風呂掃除に向かう。しっかし千歳さんも頑なやなあ、勿論さっきの思い付いたら考えるというのは嘘。こうでもせなあの場収まらへんからな…これ以上何かさせるわけにはいかん。
 今日はちょっと念入りに洗っとこ。俺は泡の立つ浴槽をひたすら擦った。


「千歳さん、今お風呂沸かしまし―…」
「あ、」
「…千歳さん?」
「そがん怖か目ばせんで欲しか。心配せんでも割ったりせんたい」
「…はぁ、しゃあないっすね」



 バスルームから出た俺を待っていたのは、手を泡だらけにして皿を洗っている千歳さんだった。勿論エプロンもせずに。俺が皿を割らないかと危惧していたと思っているようだが、その心配はしていない。ここまでされたら俺も為す術あらへんなぁ、と笑った。
 代わってください、と言うと千歳さんは嫌そうな顔をしたけど、俺が皿洗うんで拭いてもらえますか、と言うと泡を落として少し左に移動した。それを確認して俺は千歳さんの隣に立つ。




「千歳さんって行儀ええんですねー」
「いや、そがんことなかたい。家におる時は大して何もせんかった」
「ほんまですか? やったらなして…」
「…テニスば、」
「?」
「テニスばしよったけんね」



 ああ、と頷いてそういや千歳さんテニスやっとったな、なんて今更なことを思ったりする。俺は兄貴や財前のは見たことはあるが、千歳さんのはない。千歳さん来たばっかやし。もしその状況が今を作っているのなら、それを打破するのは簡単なことで。

「…テニス、してええですよ?」
「え?」
「や、外っちゅーか庭あるんですけど。まあ広くはないっすけど、壁打ちぐらいやったらできますし」

 ほら、とカーテンから覗く外を指差せば千歳さんは従うようにゆっくり其方に視線を向けた。兄貴が自主練に使っとったスペースやけど、まあ問題ないやろ。俺のこと気にせんでええですから、と言うと、千歳さんは首を横に振った。…え、どゆこと?



「今は、お前とおるけん」
「俺のこと気にしとるんですか? やったら―」
「俺が、お前とおりたか。…駄目ね?」
「…千歳さん、変わっとりますねえ」
「そいに練習は好かんたい」
「ははっ!」


 はよ試合したかー、という千歳さんに、ああこの人テニス好きなんやなあ、と心から思った。まあ千歳さんの言葉は、基礎が大事やで! と言う兄貴が黙っちゃおらんやろうけど今はよろしくやっとるみたいやしええやろ。




「でも、千歳さんのテニス一回見てみたいっすね」
「今度観に来んね」
「持ち技とかあるんすか?」
「内緒たい」

 やけん実際に観に来て確かめてくれんね。歯を見せて意地悪そうに笑う千歳さんに、気が向いたら、と俺もニヤリと笑って見せた。





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