☆08 | ナノ

「いやー買えた買えた。千歳さんおおきに!」
「…こがん激しかとは初めてばい」

 俺が千歳さんにお礼を言ったのは2つの意味。1つは戦利品をたくさん手に入れてくれたこと、もう1つはお一人様一品限りの商品が千歳さんがおることによって2つ買えたこと。2倍はデカイ。



「おっ、今日は調子ええな」
「ああ、多賀さん。おかげさまで」
「その子はもしかしてコレか?」
「…アホちゃいます? 俺男ですし」
「せやかてほら、最近流行っとるらしいやん? ボーイズラブっちゅーの? あれベーコンレタスって言うらしいで、カモフラージュで。何やベーコンレタス食いたなってきたわ」


 果てしなくどうでもいい話を繰り広げるのは主婦仲間…ちゅーか主夫仲間? の多賀さん。俺は別に主夫ちゃうねんけど。奥さんがバリバリのキャリアウーマンやから家事は全部この人が担当しとる。
 因みに多賀は名字ではなく名前、名字は結城という。…逆やったら違和感ないんやけど。




「お疲れ〜」
「ああ、五十嵐さん。どうも」
「嫌やわ、愁でええって言うとるやないの。…こっちの彼は?」
「兄貴の友達ですわ」
「えっ?でも確か…」
「脅威の中3ですよ」


 多賀さんと愁さんが声を揃えて驚き、千歳さんは2人の質問責めに遭うことになる。最初は助け舟を出そうと思ったものの、2人の間に割って入れるわけもなく俺は頭を抱えた。五十嵐さんもとい愁さんはこれまた主婦で、旦那さんは単身赴任のため実質は息子の馨くんと2人暮らし。2人は所謂腐れ縁というやつで、この2人が揃えば会話が止むことはない。



「兄ちゃん」
「おお、馨くん来とったんか。どないしたん?」
「さっき頭ぎゅーって抑えとったやろ?」
「ああ、何でもないねん。大丈夫やで」


 我慢は身体に毒なんやで!
 ビシッと指差して言う馨くんはとても5歳児とは思えない。ちょいちょいと手招きされたので、ん? と高さを合わせるように屈むと、俺の頭に掌を翳してこう言った。



「いたいの、いたいの、とんでけー」

 …ああ、今ので全部ぶっ飛んだ気分やわ。俺がいつでも治したるから! 自信満々に言った馨くん。…ほんまにたまらんわこの子。



「おかん、俺兄ちゃんのイタイイタイ治したんやで!」
「おっ、 偉いやないか。今日はハンバーグやで」
「俺チーズの乗っとるやつがええ!」
「はいはい、ポテトも付けたるわ」


 よっしゃ! と喜ぶ馨くんは愁さんと繋いでない方の手で、兄ちゃんとでっかい兄ちゃんまたなー! とぶんぶん手を振って満面の笑みで去っていった。




「あのくらいが一番かわええな」
「今いくつですっけ?」
「来年中学なんやけど冷めとってなぁ…」
「反抗期ちゃいます」
「ああ、俺は一体どこでどう教育を間違えたんや」


 そのうち俺と一緒に洗濯しないで欲しいとか言い出すんやろか…! と言い出す多賀さんはもう止まらない。こうなったらほっとくのが一番や。俺もう帰って飯作らないけないんで、と言うと待ったを掛けられる。



「これやるわ」
「…ええんですか?」
「俺は一から作るからな」
「…どうも、」

 それなら何故買ったのか。そんなんやから嫌われるんちゃいます、とは言えずにプリンを有り難く受け取った。そのまま千歳さんと外に出ると、千歳さんが右手の荷物を奪った。



「…千歳さん?」
「半分こして、手繋ぐたい」
「…千歳さんってちょこちょこかわええとこありますよね」
「…嬉しくなか」
「あははっ、すんません」

 迷うことなく俺は差し出されたその大きな手を握った。





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