☆06 | ナノ

「千歳さーん、失礼しますよー」

 両手が塞がっているためノックがわりにそんなことを言うと、ドアがスッと開いた。うお、危ねっ。よろけたものの何とか踏みとどまって、テーブルにコップを置く。トトロのコップに気付いた千歳さんは嬉しそうにそれを両手で包んだ。小さい子供みたいやなぁ。



「すんません。先に謝っときます」
「…どぎゃんしたと?」
「兄貴がですね、急用ができたっちゅーか」
「何ね、そんぐらい良かよ。」
「いや、たぶん今日帰って来ぇへんのですわ」


 俺と数秒間目を合わせた千歳さんは、まるで熱いお茶を飲むような持ち方でコップを包み、ジュースを飲んでほっと息を吐いた。
 ほんますんません、と言う俺に、お前が謝ることじゃなかよ、と優しく頭を叩いてくれた。



「どないします? まだ時間あるんで、どっか出掛けてもええですけど」
「なんか出掛ける用事でもあると?」
「ああ、晩飯の買い物は夕方行きますけど。…なんなら外食でもええですよ、2人だけやし」
「…いや、ここがよか」

 千歳さんがそう言ったので買い物は2人で一緒に行くことになった。…別に1人で行くからええのに。
 そしてそれまで出掛けずに部屋でダラダラする流れらしい。珍しいな、普通の中学生ならカラオケとかゲーセンに進んで行きたいって言うのに。ここら辺が他の中学生とちゃうんやろな、まあこんなにまったりした時間を過ごすのは俺も久し振りやし、たまにはええかな、こういうのも。



「天気の良かけん気持ち良かねぇ」
「そうですね。中に居ったら涼しいですし」
「こんだけ天気良かったら眠たくなるばい」
「あははっ、別に寝てもええですよ?」

 部活帰りで疲れてるのも相俟って絶好の昼寝の条件が揃ったんだろう、ベッドの掛け布団を半分程捲って、はいどうぞ。とベッドをぽんぽん叩くと、のそのそと歩いてベッドに身を沈めた。…こうして見るとトトロみたいやなぁ、一番でっかいやつ。




「…千歳さん?」
「…俺だけ寝るなんてダメばい」
「はい?」
「一緒に寝ると。ほら、ここ」


 千歳さんに腕をぐんっと引っ張られたため俺はベッドにダイブ。いや寝るのは別にええんやけど、一緒のベッドで寝る必要あらへんやろ。ダメと? と首を傾げられれば、俺は悩むしかないわけで。…まあ、いいのか?



「…暑くないですか?」
「俺は平気ばい。苦しか?」
「いや、平気ですけど」

 …なんでこの体勢? 俺なりに配慮をして千歳さんに背を向けて寝転がると、壁際に寝ていた千歳さんの手がにゅっと伸びて俺の腰にまわった。軽くだけど。俺は抱き枕か何かか? 何もこんなに密着しなくても…と思ったが、千歳さんほどの長身が俺のベッドで寝ようともなると致し方ないのかもしれない。大きめなんやけどなあ。



「おやすみたい」
「…おやすみなさい」

 おやすみなさい、クソ兄貴。





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