☆05 | ナノ

 飯を食い終わった後、特にやることもないのでリビングでだらだらと過ごす。この時間帯のテレビってつまらんしなあ。
 あ、と兄貴が思い出したように口を開く。


「千歳に部屋見せたり。暇つぶしぐらいにはなるやろ」
「ああ、そうやな。俺らは見慣れとるから今更やけど」
「部屋?」

 なんかあると? と言う千歳さんに、来たらわかりますよ、とだけ言って兄貴と千歳さんを引き連れて二階の自室へと向かう。狭いですけどどうぞ、と千歳さんを一番に入れると彼の動きがぴたっと止まった。大丈夫か?


「…っ、」
「おーい千歳、返事しいやー」
「な、なんねここは…天国たい…!」

 天国って。ぶはっと思いっきり吹き出した俺なんかに目もくれず千歳さんは部屋の至るところにあるトトロに目を輝かせていた。例えるならプリンが大好きな子供にバケツプリン与えた時みたいな。
 大きいトトロのぬいぐるみを見つけるや否や、触ってよか? と言われたので、ええですよ、ご自由にどうぞ。と言うと嬉しそうに顔を埋めた。いつも俺が抱き枕代わりに使っとるやつなんやけどええか、変な匂いついてへんよな。




「ちょっとコンビニに菓子とか買いに行ってくるわ」
「あ、それなら俺行くで」
「そんぐらい自分で買うてくるっちゅーねん。千歳もあの様子やしな」


 お前も千歳と仲良うなったみたいやし、問題ないやろ。
 そう言って財布と携帯だけを持って部屋を出た兄貴にさえも千歳さんは気付いてないようで、小さい子供みたいにトトロに興奮しているようだ。トトロ好きにとっちゃたまらんもんなんやろうな、そうでなけりゃただの地獄やけど。




「千歳さん? 飲み物取ってきますから待っとってください」

 聞こえてないのを承知でそう呼び掛け、俺は部屋を出た。確かまだ冷蔵庫にジュースが残っとったはずや、…あった。トトロのコップにジュースを注ぎ終わった頃、携帯が震える。ディスプレイを見ると兄貴からの着信だったので、通話ボタンを押して電話に出る。



「もしもし」
『あー俺やけど。すまん、帰れんくなってしもた』
「…は?」
『ナツキさんからお誘い受けてん。断るわけにもいかへんやろ』

 いや断れや。大体ナツキさん誰やねん、また相手変わったんか。
 あ、俺今日帰り遅くなるから飯いらんわ。
 …このパターンは、アレだ。泊まりだ。朝帰りだ。自分の容姿が中学生に見えへんからって好き勝手しやがって、補導されても知らんぞ。補導されるなら学校の関係者やろうけど。



「千歳さんどうすんねん」
『まあ千歳ならわかってくれるやろ。俺が居らんで寂しいと思うけど、千歳のこと頼んだでー。ほな』
「はぁ!? ちょっと待てクソあに…」

 き、と言った時にはもう無機質な機械音が電話が途切れたことを知らせた。…コロス。そう思って通話終了のボタンを押して俺は携帯を閉じた。
 とりあえず今は飲み物を二階に持ってくことが先決や、後のことはそれから考えよう。俺は溜め息をついて二階へと向かった。





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