☆04 | ナノ
「帰ったで〜」
「ちょお、今飯作っとるから兄貴一人で何とかしてや!」
「何やお客さんも出迎えてくれへんのかー?」
「…ああもうわかったっちゅーねん!」
兄貴の言う通り昼過ぎちょいに帰ってきたらしく玄関から聞こえてきたのはたぶん兄貴と、えっと確か千歳さん?
…そこまでは良かったのだが、俺は今まさに料理に取り掛かる最中やった。タイミング悪すぎやろ…! しかも兄貴があんなこと言いやがったら行かんわけにもいかんし。とりあえず兄貴は一発殴る。
「千歳、俺の弟な。コレ」
「コレ言うな! どうも初めまして、兄貴がいつもお世話になっとります」
「じゃあ俺着替えてくるわ、リビングに通しといて」
「靴揃えてけや! …ったくもう、」
でかい。話には聞いていたがでかい。正直首が痛い。
靴も揃えずに自分の部屋に直行した兄貴に文句を言いながら靴を揃えて、とりあえず上がってください、と促す。千歳さんはしっかり下駄を揃えて…下駄?
「いつも下駄で歩いとるんすか?」
「そうたい。6キロあるっちゃけど」
「ろっ…!?」
「片方で」
…寒くないんすか、そんな次元の話じゃない。もともと変人ともいえる兄貴の友達なんや、驚く時間がもったいない。裸足の人をそのまま通すのも悪いと思ったので、スリッパをお出しする。
「あ、サイズが…すいません」
「問題ないばい」
「え、いや、でも」
「…いや、こいがよか。ありがとう」
トトロなのはわざわざ出したんやなくてうちにはトトロのスリッパしかあらへんから。しかしそのスリッパはサイズが明らかに合っていなかった。そうや足大きいに決まっとるやんけ…!
戸惑う俺をよそに、ぽんぽんとその大きな手で頭を優しく叩かれる。うわ、手でけぇ…。なんか何もかもがキングサイズ…この言い方やだな。
「もうすぐ兄貴来ると思うんで適当に座っとってください」
「わかったばい。…どこいくと?」
「あ、俺は料理の続きを…」
すいません、もうちょい待っててもらえます?
俺は千歳さんにそう告げてキッチンへ向かった。いわゆるうちはオープンキッチンというつくりで、リビングからは調理の様子が丸わかり。運ぶの楽やからええんやけど。
「好き嫌いあります?」
「特になかよ」
「良かった、兄貴に聞いても碌な答え返ってこなかったんで安心しましたわ」
「白石と仲良かねー」
「うち両親あんま家におらんので、実質は兄貴と2人暮らしみたいなもんなんですわ」
料理をしながら千歳さんと話す。わかったことは、彼は熊本から出て来て寮で暮らしていること、熊本には家族がおってその中には妹さんがおること。あとはトトロが好きなこと…あ、これは兄貴から聞いて知っとったな。
上に兄貴がいる安心感からか、会話は途切れることなくスムーズに続いた。料理は作り終わったが兄貴が降りてくる気配がないので、料理を盛った皿をカウンターに置くと千歳さんが、お洒落かねー、と言いながら運んでくれた。
「千歳先輩、は」
「千歳でよかよ。」
「じゃあ千歳さんで。千歳さん、トトロ好きなんすよね」
「そう! このスリッパ出て来た時はびっくりしたばい。お持ち帰りしたかー」
「っぶは、お持ち帰りって!」
実際トトロのスリッパなんていくつもあるからやってもええんちゃう? って思うんやけど、一応母さんのものなのでそこはぐっと黙る。吹き出した俺を見て千歳さんが固まったので、どないしました? と聞くと、笑った顔が白石に似とるたいね、とまた頭を撫でられた。…人の頭撫でるん好きなんかな? 後で部屋見せたらどない反応するんやろ。
「すまん遅くなった…って何や、仲良うやっとるやん」
「トトロ好きに悪い人はおらんばい」
「あー腹減った。早よ飯食おうや」
「お前を待っとったんじゃドアホ」
「…な? きっつい弟やろ」
「しっかりしとるたい」
なんや疎外感や、と呟いた兄貴をアホって一瞥してみんなでいただきます。腹が減っては何とやらっちゅー話や。
next.