wash;01 | ナノ

 降りしきる雨の中、そこに彼はいた。


「…あの、」
「はい?」
「そこで何してるんですか?」

 そう言うと振り向いたひと。彼は確かに傘を持っているのだが、その傘は開かれることなく、身体は僕と同様、いや、僕より濡れているだろうか。服が張り付いて気持ち悪いのはお互い様、だろう。…そして性別は、どうやら男のようだ。




「座ってる、かな」
「…そう、ですか、」
「うん」


 いや、他にも突っ込むべきポイントは色々あるんだろうけれど、彼にふわりとした口調で言われて、妙に納得してしまった。
 お互いに名前だけの自己紹介をすると彼は握手を求めてきたので僕も手を差し出してぎゅっと握った。今にも折れてしまいそうな細い指だ。すると彼は柔らかく笑った。



「…家、帰らないんですか?」
「家、どこかわかんないんだよね」
「…はい?」
「迷子になっちゃった、みたい」


 ふふ、と笑った彼に見とれながらも、僕は驚愕の余り、口を開きっぱなしで見つめた。彼は相変わらず笑っている。
 もしかして、ちょっとワケありな事情があるとか? そういうのだったら、どう接していいかわからないし…



「雨、止まないねえ…」
「あ、あのっ」
「うん?」
「うち、来ます?」





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