慟哭する烏と少女の憂鬱


「君はさ、神様っていると思う?」

 いつものように突然私の前に現れた烏哭は、何の前触れもなくそう言った。
 この男はいつもこうだと何処か諦めている私は、暫し考えてから答えを返す。

「……世界のどこかには居るんじゃない」

 火の無い処に煙は立たないっていうし、と付け足せば更なる問いが返ってきた。

「じゃあ、梦月にとっての神様は?」
「それは、依存の対象になるような存在、ってこと? だったら居ないわ。神様どころか……大切という概念すら私の中では曖昧だし」
「へぇ? 君にとって三蔵一行は大切≠カゃないんだ?」

 私の出した回答に面白そうに茶々を入れてくる烏哭。

「……何が何でも守りたい存在か、って言われたら違うわね」

 もとより、私にそんな力はないけれど。心中でそんな言葉をそっと付け足す。
 それにみんな、誰かに情けを掛けられるくらいなら舌噛んで死ぬような連中だ。

「――もし突然、彼らが君の前から消えても?」

 突如鳥の囀りが止んだかと思えば、代わりに聞こえたのは不穏な物言い。
 消える? 誰が? 三蔵達が?

「……いつかは忘れるわ」

 そんないつか≠想像すると、確かに涙を流す自分が浮かんだ。しかし、それも一時のもので悲しみに暮れることは無いだろう。
 嗚呼、神様=B私は薄情な人間ですか?

「ああ、だけど……」

 そこまで考えて、不意に浮かんだ、もう一つの映像。

「ん?」
「烏哭があたし(、、、)より先に死んだら悲しい……かな」

 もし目の前の男が死んだら、私は生きることを放棄してしまうかもしれない。脳内にはしっかりと、悲しみの果てに衰弱死する自分が浮かんだ。
 私にとっての神様は、案外身近な処に居たようだ。


慟哭する烏と少女の憂鬱

(何かしてほしいワケじゃない)
(ただ、世界の何処かに在ればいい)

−−−−−…
何かに依存したい烏哭さんと、知らぬ間に依存していたヒロインの話。傷の舐め合い。


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