そして、また貴方を渇望する


 烏哭さんのお家には、たくさんのぬいぐるみが飾られている。

「……ぬいぐるみ、好き?」
「わっ!」

 ソファに腰掛けてそれらを眺めていると、突然背後から声を掛けられた。この人はいつも音もなく現れるから心臓に悪い。
 どうやら紅茶を淹れてきてくれたらしく、テーブルにティーカップが並べられる。

「可愛いでしょ〜、この仔たち。欲しかったらあげるよ〜」

 そう言って目の前に腰掛ける烏哭さんに、あたしは小さく礼を述べる。

「――好きだけど、いらないかな」
「……どうして?」

 続いて断りの言葉を紡ぐあたしに、彼は不思議そうに首を傾げた。

「ぬいぐるみを抱いて寝ると、なんだか寂しくなるんだもん」
「へぇ? 珍しいね。普通は寂しくなくなる≠ニか言わない?」

 烏哭さんは言う。けど、そんなのは気休めだ。
 それに、ずっと独りで生きてきたあたしは、孤独を嘆く情緒なんて忘れてしまった。

「うーん……だってほら、温かくないでしょ? 寂しさなんて幻想だから……幻想に幻想を抱くなんてしたくないの」

 何もかも、閉じ込めてしまえばいい。温もりなんて、求めなければ……。

「幻想だって判っているのに、君は寂しさを感じるの?」

 まるで、水面に広がる波紋のように、彼の言葉はあたしを揺らした。

「それは……」
「君の考えはある種正論だけど、肝心の君自身がそれを受け入れきれていないみたい」

 そうして広がった暗闇は、閉ざしたはずの扉すら意図も容易くすり抜ける。

「君の中で寂しさは、幻想になりきれていないんだ」

 ――鍵が、壊れる音がした。
 暫く俯いたまま時間が過ぎる。永遠にも一瞬にも感じられたその時間は、烏哭さんの態とらしい口調で終わりを迎える。

「こんにちは=v

 ハッとして顔を上げれば、うさぎのぬいぐるみと目が合った。

「………」

 一体なに、と睨み付ければ「あげる」と言って渡される。
 伸びてくる腕。その手にはうさぎさん。

「可愛がってあげてね? うさぎは寂しいと死んじゃうから」

 そんなのデマカセだしこれは只のぬいぐるみ。それなのに手を伸ばしてしまうのは何故だろう?


欲しいモノは一つだけ

(貴方は、あたしの孤独を埋めてはくれないのね)


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