げ水の行方

 あ、これ死んだな、って思った。今まで何回あったかな。毎回の如く、脳みそが俺の記憶で勝手に遊んで、思い出がフラッシュバックする。一秒が、一瞬が留まって、時間が止まるような感覚。ただ俺を殺すときが近づくのを待つ。

 夏のアスファルトに見える水溜まりを追いかけてた。あの水溜まりを踏めたら、俺はあいつのためにぜんぶしてやろう。真夏の逃げ水を追いかけて、それに賭けた。そんなのはまず間違いなく現実的には不可能で、だからつまり俺にはホントは賭けるほどの意志すらなかった。
 汗が顎を伝う。重力が風速に負けて、俺の汗は後ろへ翔んだ。自転車のブレーキは乗る前から壊れてて、でも知ってて乗った。なんかもう熱くて何も考えたくなかった。
 まっすぐ前を見る。ずっと続くコンクリートと蜃気楼。蝉の鳴く声以外何も聞こえない。それが突然、音がした。

 右に振り向くとそこにはトラックがあって、運転手が焦ってクラクションを鳴らしてる。あ、死ぬなって思った。
 脳みそが俺の記憶で遊ぶ。思い出がフラッシュバックする。一秒が、一瞬が留まって、時間が止まるような感覚。ただ俺を殺すときが近づくのを待つ。
 前にもこんな風に事故にあって、俺はいろんなことを、いろんな人を思い出した。
 でも今日は違った。思い出すのは昨日の事だけ。
「ぎ、んとき‥」
 呼び慣れない俺の名前をぎこちなく呼んで、土方が俺との距離を詰める。いつもより真剣で瞳孔開き気味の目がなんか愛しく思えて、ああ、俺もこいつのことこんなふうに想ってたんだって、ちょっとだけ嬉しかった。だから土方の隊服に手をかけて、暑くねえの、って聞いた。
 気づいたらお互い裸で抱きあって、汗だくになってた。でも俺は最後までできなかった。俺の中に入ってこようとする土方を、俺の体が拒んだ。急に身体中の筋肉が硬くなって。なんでかな、愛しいと思えたのに。
 もしこのまま死んだとしたら。そう考えて、俺は死にたくないと思った。まだ土方に俺も好きだよって言えてない。
 できなくて、俺は怖かった。このまま何回試してもその度に俺の体が拒んだら、土方はたぶん昨日みたいに寂しそうな顔をして、悪かったなって言うんだろう。それが怖かった。だから馬鹿みたいに逃げ水を追いかけて、俺には身体を繋げる勇気がないだけだったんだ。
 生きてたら一番に電話をかけよう。そんでたぶん電話ごしにテンパるあいつに俺はもっと驚くような言葉を言う。

「‥もしもし、土方?」
「え、ぎ、銀時」
「俺さー、お前の事好き」





斗七星の嘲り(オリジ)

「あたし、あの人と寝たよ」
「‥‥」
「凄く優しくしてくれたの。終わった後もずっとぎゅってしてくれてね」
「‥‥」
「何回も大好きだよって言ってくれたの」
「‥‥」
「別れ際なんか涙溜めちゃって」
「‥‥」
「お願いだから解放してくれだって。笑っちゃうよね」
「‥‥」
「でもあたしは優しいから、今日でホントにお別れしてきたの」
「‥‥」
「そっちであったら仲良くしてあげてね」


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