絞首台でプロポーズ
金属音を伴って、男は仰向けに倒れた。落ちていくその瞬間、目を閉じることはなかった。逆転していく世界の中で、目の前の男のことを想っていた。二本の刀が地面を突き刺すまでに、男の自由は奪われた。
二人の男を包むのは、硝煙と血の海、そして鎖で繋がれるべき男たちと、一方の同士たちの死体。その全てが異様な空間を作り出していた。咽せかえるような死臭に、怒りと絶望が込み上げる。
「なぜ裏切った」
逸らされることのない赤い瞳に怒鳴る。これだけ叫んでも眉ひとつ動かさない男に殴りたい衝動が胸の内側で鳴いた。
「別に裏切ったつもりはないよ」
動揺など微塵も感じさせない、冷たい声だった。全てを諦めた目だった。
「…最初から俺は土方の仲間なんかじゃない」
胸がスッと冷めていくように感じた。土方が怒鳴ったのは、まだ微かな期待があったからだ。こんなことは坂田の意志ではないのだと、その口が言うのを待っていた。今までのこと全部、嘘ではないと言って欲しかった。
記憶の中の坂田が塗り変わっていく。
「……死ねよ」
視界がチカチカ光るほど、体が殺意で満ちる。だが恐ろしく冷静だった。
視線をあわせたまま、土方は立ち上がった。右足は、坂田の鳩尾にえぐりこんだままだ。
地面に刺さっていた刀を二本とも抜き、一本を坂田の右腕に突き刺した。
「ぐ、あ゛、ーーっ!!」
「は、痛ェか」
反射的に刀を奪い取ろうともがく左腕にも同様に突き刺す。
悲鳴が耳に響く。その声に少し痛みを感じた。そしてそれをかき消すように土方は何度も坂田を踏みつけた。
「俺が、殺してやるよ」
「う゛あ、…っ…」
坂田の首に手を伸ばした。白く薄い皮膚の下に感じる骨を親指で押し付ける。咽せて起き上がる肩を押しつけて、首においた手に力を込めた。
「……ひ、じ…」
「………」
坂田の目が力を失っていく。流れていく涙が乾いていた血を溶かし、銀色の髪を汚した。
酸素を求めて動いていた口が、不意に閉じられた。焦点の定まらない目が土方を捉える。音はなかった。ただ唇の動きが意味を持った言葉を土方に送る。それが最期だった。
「……くそ、…」
坂田の上に崩れた。裏切りの罰の証が首筋に赤く残っている。
土方はまだ暖かい体を抱きしめて、坂田の最期の言葉を口にした。
「好きだ」
この場所に不釣り合いな言葉だと、土方は笑った。
W副長パロ