12.エルシッドの剣


ユヅキが立てた作戦は既に効果を表し始めていた。最終目的であるコルシを制圧するにあたって、先ずは足場となるアクヴィを抑える必要があった。
そのアクヴィの前に張っていた白虎の陣営はユヅキ率いる0組の活躍によって難なく抑える事ができたのだが、それと同時に白虎が近くの森林に隠していた砲台での砲撃が始まったのだ。ユヅキ達は攻撃を受けつつの進軍の為、すぐに砲台へ向かうのは難しい。
そこでナギ率いる別働隊が動き出したのである。

「あーこちらナギ。砲台はこっちが受け持つ…っと、どうやら伏兵もいるみたいだ。それも同時に叩いとくからそっちはそのままアクヴィに進軍よろしく。」

「了解。伏兵の掃討が終わったらそのまま森林を警戒しつつコルシの方へ向かって。何もなければコルシの入り口で合流よ。」

「おう、了解。」

通信を手短に済ませると、ユヅキは皆に向き合った。ナギとの会話を聞いていたのか、エースが声を上げた。

「進軍するのか?」

「ええ。私達はこのままアクヴィへ。制圧した後に、コルシね。一気に叩くわよ。」

「パパッとやっつけちゃお〜!」

「敵はどこだオラァ!」

「アクヴィならこの陣営から然程遠くないですね。私の弓であればアクヴィの敵を狙撃する事も容易でしょう。何が言いたいかというとここは私に、」

「トレイは黙って!」

「2人とも、こんな所で喧嘩しないでください!」

行動を共にしている0組の7名は頷き、それぞれ意気込んでいた。一部はいつも通りのやりとりをしていたが…バラバラなのか息が合ってるのかよく分からない。ともあれ、やはり0組の力は凄まじいものである。この少数でひとつの陣営を抑えても余裕のある表情をしていた。ここはもう大丈夫だ、と確認してからユヅキ達は陣営を他の隊に任せ、速やかにアクヴィへと向かった。











「こちらユヅキ。たった今アクヴィを制圧したわ。敵兵は全て掃討。これから私と0組の7名はコルシに向かうけれど良いかしら、クラサメ隊長。」

「ああ、了解した。」

出撃してから2時間も経っていない、0組の優秀さは飛び抜けている。策を講じたユヅキもしかりだ。白虎が隠していた砲台は発見してから程なくして沈黙した。
さすがは現役だ、と作戦室でクラサメはやるせない気持ちでひとつ息をついた。自分はここでただ戦の報せを待つだけの役目なのだ、と思うと指揮隊長という役職がとてもちっぽけな物に思えてきてならなかった。以前よりその気持ちが強くなっているのは同期であるユヅキが未だ戦場に立っている事を実感したからだろう。
勿論、ユヅキが現役であるというのは前から知っていた事なのだが、こうして戦場を共にするのは初めてだった。自分と同じ隊長だというのになんだか生きている場所が違うように思えてしまう。

これから先、戦いは厳しくなっていくのだろう。上手くいけば最終的には抵抗する白虎の首都を制圧していく事になるはずだ。しかしそれは戦場が更に激化していく事を表している。そんな場所に皆を放り投げる様な真似をする事になってしまうのが歯痒かった。出来る事なら自分も皆の横に立っていたい、と思わずにはいられなかった。







朱雀軍の士気が高まっている。白虎の第一陣営に加え、アクヴィもかなり少ない被害で抑えられたのだ。更にこれだけ短時間で制圧できれば当然の事なのかもしれない。初戦である他組も、出撃時の不安な面持ちが幾らか和らいできているようだった。

「もう外からの増援も無いみたいだし、お偉いさんはとっくにトゴレス要塞に逃げ帰ってんだろうな。」

「でしょうね。ま、こちらとしてはこうして比較的安全に全軍で進軍できてるわけだし、悪い事は何も無いけど。所詮兵は捨て駒って言うのはどの国も同じね。」

「敵に情でも湧いたか?」

「まさか。」

「はっ何であろうと敵は敵だろ。全部ぶっ殺すだけだ。」

ユヅキとナギが白虎兵を一人ずつ仕留めている近くで、サイスがサンダーを放っている。そして身の丈より大きい鎌を振り回して、サンダーで怯んだ兵をバリケードごと薙ぎ倒していた。
彼女は候補生にしては随分ストイックな意見を持っている、と思った。正論ではあるが、そう割り切れる候補生はかなり少数だろう。

「ええ、もっともな意見ね。まあだからこうして、今も任務を遂行しているんだけど。」

「やらなきゃやられる、ってヤツだな。」

少し前ではエイトが的確に拳を急所に当て、シンクがブン、とメイスを回して何人もの敵兵を飛ばしていく。更にユヅキの背後ではキングの銃弾が敵兵を貫き、デュースが不思議な音塊で敵兵を吹き飛ばしている。
皆、容赦無く白虎兵の命を奪っていく。歴戦の戦士のように、躊躇いもなく奪うこの情景は参加者の大勢が候補生だというレコンキスタ作戦にはとても似つかわしくない情景だった。

ユヅキの横でマキナが敵兵を薙ぎ払っていた。だが彼のボルトレイピアの剣先は少々ブレていたし、マキナの側にいるレムも回復魔法を重視する行動をしている。
周りから浮いている、と思った。いや、何もこの2人がおかしいのではない。寧ろこの2人の感覚はきっと普通だ。しかしその"普通"がこの場では異端なようだった。

「おらおらおら邪魔だぞコラァ!」

「ナイン、一人で先走らないで下さい!」

「そうですよ、危ないです!」

「まあ、いいじゃないか。」

ナインが槍をグルグルと回して、堅固そうな盾を構え道を塞ぐ突撃兵をいとも簡単に突き刺した。
L字の通路を抜ければいよいよコルシの中心にあたる広場に到着する。ダッと0組が駆けていったその先には極少数の兵と白虎の兵器である鋼機、プロメテウスが中央に鎮座していた。

「あー…なんつーか、ほんとに選ばれし捨て駒って感じ?」

「ええそりゃあもう何時間もかけて厳選した選りすぐりなんでしょうね。」

「なんだ、さっきから随分と気分いいのな。」

「…なーに、戦場で気分良くなるバカが何処に居るのよ。」

0組が人数で勝ってしまえば、何も怖いものはないだろう。あっという間に兵を鎮圧し、プロメテウスも煙を出しながら動かなくなった。

ここからが私達の仕事である。
先ずはプロメテウスに乗っていた指揮官を拘束し、降ろさせた。所持品を調べて分かったハミルトン中尉をユヅキは無理矢理自分の方へと顔を向けさせる。

「さて…まあ貴方は何も知らなそうな顔してるけど……何か、命乞いする為の情報は持っているのかしら?」

「も、もうみんな俺より偉いヤツはトゴレスに戻っていったさ…あ、ああ確かトゴレス要塞で君達が使っている魔法の防御装置を起動させようとしているって戻っていくヤツが言っていたのを聞いたぞ……!」

「ふうん、それは確かに良い情報ね。アレを相手にするのは大変だし厄介な問題だわ……もう命乞いはできたかしら。それじゃあもう、用済みね?」

服が赤く染まった。彼は目の前で鮮血を散らし、そして果てた。なんと言う名前だったか。もう思い出せもしない目の前の敵兵は無様な顔を晒して地に体を付けていた。

全ての任務は滞り無く完了したのだ。こうしてコルシは再び朱雀の領土へと還ったのである。
後から来た候補生達はコルシの奪還に沸いている。マキナとレムの2人だけが後は任せた、と魔導院へ戻っていこうとするユヅキの後をジッと目で追っていた。






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