もしも妖怪ならば。 | ナノ

たまにはね


何を間違えたのか。それを考えた時に思い当たるのは、放課後になってすぐのことだった。


「いや、今日は絶対無理」


ハッキリと断言した生徒会長の頬を引っ叩いてやったのは記憶に新しい。苛立った気持ちをそのままに生徒会室を出たから、その後なんて知らないけど。
昨日、DVDを借りてきた。暇潰しにいくつか借りたのだけど、その中でも店内の目立つスペースに置かれた狼男の映画が面白いのだと店員が言っていた。だから私はちゃっかりそれに乗せられて借りてしまい、そういや今晩満月だしちょうどいいじゃん的ノリで一樹を誘ったのだ。
すると冒頭の一言の後、明日じゃ駄目かと言う。別に私は生徒会長様と違い暇人だから一緒に見てくれるならいつでもよかったのだけど、あまりにも一樹が必死に頼み込むので不審に思う他なかった。コイツは私に隠し事をしている。
一樹の様子から察するにとても大きな隠し事で、そこまで悪くは無いと自負している頭を働かせた結果、浮気という結論に到達した。
この学園で浮気相手なんてマドンナの他に思いつかないのだけど、月子はいい子だからお咎め無しだ。可愛いは正義。
だからあろうことかマドンナを誑かした一樹をとっちめてやろうと決意し、現在に至るのだが。


「……えーっと……一樹、くん?」


心底気まずそうな顔をして視線を逸らす一樹。すっかり晩ご飯も済ませただろう頃を見計らい、合鍵を使って強行突破した一樹の部屋には彼以外いなかった。つまり浮気ではなかった。
それは大変喜ばしいことなのだけど、私は今、直視したくなくてもしなければならない現実というものを目の当たりにしている。


「…一樹?ちゃんと説明してくれるんだよね?」

「……拒否した場合は」

「月子に浮気したという噂を盛大に流す」


サアッと顔を青ざめさせた一樹の前に、どかりと腰を下ろした。もしそんな噂を流せば、騎士達をはじめとする学園中の男共がただじゃおかないだろう。
それをしっかりと理解した一樹は居心地悪そうに肩を竦め、私の顔色を窺うような視線を寄越す。


「……一樹くーん?」

「っわかったよわかったよ!俺は狼男!満月の夜は変化しちまうから映画も見れなかった!これでいいか!?」


なかば自棄に紡がれた言葉達にそう混乱することもなかったのは、私の肝が据わっているからなのか。
何も言わずにただじっと彼の瞳を覗き込むように見据えていると、灰色の獣耳と尻尾が彼の心情を示すように項垂れた。何これ可愛い。


「…さ、触ってもいい?」

「はっ?え、いや、い、いいけど…」


なんだか困惑したような顔をする一樹の頭にそろそろと手を伸ばして、ぴょこんとはえた耳に触れる。犬だ。犬と同じ耳だ。
彼の髪質と全く同じそれをさわさわとなで続ける私を、戸惑ったように見つめる若草色の瞳。その理由がわからずに首を傾げると、一樹は恐る恐るといった様子で私の頬に触れた。


「お前、俺が怖くないのか?」

「どうして?」


いつも俺の物だと誇示するように触れてくる指先が、初めて触れたみたいにそっと頬をなぞるからつい笑ってしまった。
怖い訳なんてある筈がないのに、変な所で自信を無くしてしまう一樹が馬鹿みたいに大切で愛しい。
この優しい気持ちができるだけ強く伝わるように、普段はあまりしないけど自分から彼を抱き締めた。


「一樹の事知れるの、私うれしいよ。人間じゃなくても、大好きな一樹だもん」

「……やべ、久しぶりにきた」


ぎゅうっ、と潰されるかと思うほど強く強く抱き締める一樹の腕はいつものもの。押し付けられた肩越しに見た尻尾が嬉しそうにパタパタと揺れているのを見ながら、これはこれでいいかもしれないと笑った。




たまにはね


素敵な企画ありがとうございました!




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