もしも妖怪ならば。 | ナノ

たとえそれが許されなくとも


いつからだろうか、わが家に吸血鬼がやってくるようになったのは。

かってに人の家に入り込んできたと思ったらベッドに直行……いやいやいや、ありえませんから。


最近は仕事で疲れて帰ったらリビングでくつろいでいるのだ。


そして今日も私はそのマンションに帰りつく。


カチャリ


私が鍵を差し込む必要もなく開く扉。
そして誰も居ないはずの部屋から聞こえる声。


「おかえり、名前」


待ってましたと言わんとばかりに読んでいた雑誌を閉じて私を迎えてくる。
一人暮らしだったから少しだけほんの少しだけ嬉しく思ってしまう。

ご飯できてるよ?

なんて言われたら誰だって文句言えなくなる。


それになんだかんだ言って彼の作る料理は美味しい。


「でも今日は……僕のお食事優先にさせてもらうよ。」


いきなりしゃがんだかと思えば私の脹脛と太ももの関節を腕で軽く押した。
属に言う膝かっくんとやらである。

私の足は力を失い彼の腕にもたれかかる。


それと同時に持ち上げてお姫様抱っこ。

私をいくつだと思ってるのか……
その前に私は何をされるのか考えただけで眩暈がする。


「何考えてるの?」


不機嫌そうに私を見る瞳。
水色?そういえばこんなにじっくり彼の目を見たことはなかった。

綺麗。


「あのさ、それ声出てるの気づいてる?そんなに頂かれたいのなら今すぐにでも」


カプリ


くすぐったいと思った瞬間チクリと痛む首筋。
彼の郁の荒い吐息が私をゾクゾクとさせる。


ゴクゴクと何かを飲む音。
私は抵抗する事も無くされるがままである。

でも、それを悪くないと思ってしまう自分がいるのも確かである。


「やけに静かだね……キス、していい?」


私に触れる手は壊れ物を扱うように優しく丁寧である。

声が一切でない。
”うん”たかが二文字が喉の奥につっかえて出てこない。


コクリと頷く。


すると唇に待っていた感触。
しかしその味は甘くは無く不味くもないが美味しくもない。

初めての味、未知の味というべきか。


「好きだ名前……」


彼の一言に体中の体温が上昇していくのがよく分かる。

嬉しい、嬉しいのに私の頬には一筋の涙が流れた。
自分でも何で泣いているのか分からない。


目の前には寂しそうに目を細める郁がいた。

私も好きだよそう言いたいのに口は開くのにまた声が出ない。
パクパクと口を開いているだけ。

言いたい事いえてないのに……
なのに郁はその涙を掬い上げながら微笑む。


「もうお腹いっぱいだよ……起きれる?」


そう言って居候、不法侵入者の癖に私を気遣うんだ。
勝手に食べた癖に。

こんな彼だからもっと惹かれてしまう。


たとえそれが許されなくとも。




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