もしも妖怪ならば。 | ナノ

それは、一人の鬼の物語。


町はずれの森の中、一人の鬼がいた。






人間と鬼の間に生まれたその鬼は、左は水色の人間の瞳、右は真っ赤な鬼の瞳をしていた。
生みの親は子を捨てたまま行方不明。
鬼の里に残された鬼は混血というだけで一族の鬼達から嫌われていた。

やがて鬼の里を追い出された鬼は、人間たちの暮らす町へと出た。
もしかしたら、この町のどこかに自分の父と母がいるかもしれない。
まだ幼い鬼は、そんな淡い期待を胸に町の中を歩いた。

しかし、人々は鬼の右目を見ると、恐怖で顔を真っ青に染め逃げ出した。
中には鬼に石を投げつける者もいた。
鬼は逃げるように森の中に隠れた。



鬼の中でも人間の中でも、鬼はひとりぼっちだった。



あるところに"司"という人間の男がいた。
司は鬼を抱き締めると、こう言った。


「一人じゃないぞ。これからは、わしがお前の家族だ。わしと共に生きよう」


初めての感触に、ぬくもりに、……愛に、鬼は戸惑った。

司はその鬼に"翼"と名付けた。
はじめは心を開かなかった翼も、司との暮らしの中で徐々に明るい表情を見せるようになった。



司と翼は、本当の親子のようだった。



しかし、幸せな生活も長くは続かず、しばらくして司は病で倒れた。
翼は一睡もせず、片時も司の傍を離れなかったが、司は息を引き取った。

翼は泣いた。
泣きまくった。
でも、どんなに泣き続けても司が戻って来るわけではない。



翼の心は再び固まってしまった。



月日は流れ、、数十年の時が過ぎた。
翼は自ら鬼からも人間からも避け続け、一人で隠れ住むようになっていた。



あるところに"名前"という人間の少女がいた。
偶々森に迷い込んだ名前は一軒の小さな家を見つけた。
翼が暮らしている家だった。

トントン
家の中にノックの音が響く。


「すみませーん。誰かいませんか?」


あの日以来聞く事の無かった"人の声"に翼は息をのんだ。


「いないのかな……あ、鍵が開いてる」


しまった。
鍵を掛けておくのを忘れてた。


「勝手に入るのは失礼だけど……」


入る気なのか!?


「やばっ……ぬわぁっ!!」


隠れようと立ち上がり踏み出したが、不運にも床に落ちていた本に躓いてしまった。


「?!何か大きな音が……失礼します!!」
「まっ……」


待って……!!
隠れる間もなく、扉が開いた。


「……あ……」
「ッ」


目と目が合う。
翼は咄嗟に右目を……鬼の瞳を隠した。


「お、鬼?」
「来ないで!!」
「え……?」


あの時の光景が甦る。
人間達の恐怖と憎しみに染まった視線が。


「お、俺は鬼だから、化け物だから」


君もまた俺を見て逃げるんだ。
そしたら、じいちゃんがいなくなった時みたいに俺はまた一人になってしまう。
もう、あんな思いはしたくない。
あんな思いをするくらいなら、最初から、一人でいるほうがいい。


「……それがどうしたの?」
「……え?」


名前の言葉に、思わず目を隠すのも忘れて凝視した。


「鬼とか人間とか、関係無いよ」
「で、でも、みんな俺を見て逃げ出すんだ……みんな、俺のことが、怖いって……」
「全ての人間がそんなわけじゃないよ。少なくとも、」


名前は逃げようとする翼の腕を掴むと、抱き締めた。


「私は、キミが怖いとは思えない。一人になるのが怖いなら、私が傍にいてあげる。私と一緒に生きていこう?」



「わしと共に生きよう」



司の声が甦る。
ボロボロと涙が零れ落ちる。


「ぁ、……ぅッ……ぬわああああああああ!!」






町はずれの森の中、一人の鬼がいた。
翼という名のその鬼の傍には、名前という少女の姿がいつまでもあるのだった。










×××××アトガキ×××××

 はじめまして!『青春ボイコット』の時鏈創と申します。

 実はこの文、ボカロの『The Beast』と『空想フォレスト』をイメージして書いています。
 鬼なのは自分が単に鬼が好きだからです……鬼も妖怪ですよね?
 駄文ですが、どうか楽しんで(?)読んで頂けていると幸いです。

 ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました!
 そして何より、このような素敵な企画を発案してくださった錫奈様、本当にありがとうございます!
 また機会がありましたら是非とも参加させて下さい!








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