もしも妖怪ならば。 | ナノ

ねえ、これってきっと


私には妖怪が憑いている。
まあ、あれな言い方をすれば化け物、という扱いでいいんだろうけど。

その妖怪は犬神という。名前は宮地龍之介、というらしい。本人が言ってた。
犬神というのは犬霊の憑きもので、もとは蟲術が民間に流出したもの。飢餓状態の犬の首を切り落として、だとか、犬を埋めて空腹が限界になったところで首を切り落としてだとかなんとかかんとか(結局は首を切り落とすらしい)。調べたら書いてあった。人以外にも取り憑き牛や馬、無生物などにも取り憑くらしい。
で、犬神は意外と狂暴らしく、必ずしも従順というわけではなく、犬神憑きの家族を噛み殺す、だとかそういった事もあったらしい。

うちの犬神は、そんなことは全くない。

むしろ私に懐いている。とても懐いている。そして色々とおかしい。何をどう見ても、その文献に書いてあった犬神という妖怪と同じものであるとは思えない、全く。

先ず、私に非常に懐いている。もう有り得ないほどに懐いている。というか、普通にハグとかキスもしていて…うん、とてもよくわからない関係性だ。
次に、食べ物を食う(そして甘党)。普通の妖怪…っていうか霊って食べ物食べるの?他に霊を知らないから訊きようがないけど。プリントかケーキとか嬉しそうに食べてる。
記憶が無い。いやまあ普通の霊に記憶があるかないかとかそういうのは知らないんだけど、彼が覚えているのは自分の名前、種族名くらいらしい。
ちなみにであった経緯はもう覚えていない。小さいころから取り憑いていたのかな、とか思いながらも思い出せないのだ。
誰かそういうの関係の人に言って、祓ってもらおうかな、とか思ったこともあるんだけれど、私に害はないし(甘味をちょくちょく取られるのは非常に困っているけれど)、なんだかんだで勉強もできる(これは本当に疑問だけど)ので、うん、まあ放置している。なんだかんだで龍之介と過ごす日も楽しいし。まあ、彼は私以外には通常は見えないので、人が居る所で不用意に話すとあいつ何やってんだ的な目で見られるのがちょっと難点だけれども。
そんな、私の日常の一ページ。







「…ちょっ龍之介、それ食べないでよ!」
「ん、何故だ…」
「私が食べるから!前から楽しみにしてたのがやっと来たんだって!」
「しかしこれは美味い…」
「美味しいところのカステラなんだから当然でしょ!?」

今日も今日とて、龍之介とお菓子(カステラ)の取りあいをする龍之介と私。人間と霊が菓子の取りあいって、良く考えたらわりかしカオスである。考えても仕方ないけど。
ちなみに、龍之介は物に触れる。その範囲は、何故か「私の所有物」に限るけれど。その範囲も微妙に曖昧。

「…うん、美味かった」
「そりゃそうでしょうね、私のカステラ半分以上食べてくださりやがって!」
「…悪い」

しゅん、と音を立てながらうなだれる龍之介。こういうところ見てると犬っぽいんだけどなあ。人の形をとってるけど。性格的に犬っぽい。

「ったくもう……」

なんとなく文句を言いながら、片付けるために立ち上がろうとする。と、

「…名前」
「うん?」
「…悪かった。許してくれ、」

ちゅ、と唇にやわらかいものが触れる。
これはあれだよね、キスされたんだよね。

「…龍之介…、あのね、キスなんてあんますんなって言ってるでしょう!?」
「しかし、お前はこうされるのが好きだろう?」
「そういう事も言うな!」

恥ずかしいから、と叫びながら、照れ隠しに殴ろうとすれば(ひどい照れ隠しだ)ぱっ、と龍之介の体が透き通る。…こういうところで霊らしさ発揮するのって、ずるいと思うんだけどな。あ、ちなみにいつもは実体化しているらしいので私にも触れる(私以外の人間には見えない)。他人には見えない。気合入れれば私以外の他人にも見えるようになるとかならないとか。その辺はややこしくて頭が痛くなりそうだったので深くは突っ込まなかった。

「透明化するなっての!」
「…俺だって殴られれば痛い」
「痛くなるようにしてるんだから当然でしょうが!」

ほらほらさっさと触れる状態になりなさいよ、と言いながら睨んでも、一向にそうなる様子はない。この状態のこいつに付き合っていても良いことは全くないので、とりあえず無視してカステラの片づけの作業に戻る。
キッチンへ行って、お皿を軽く洗う。食洗機(最近は食器を乾かす場と化している)へ突っ込んで、出たごみも片付ける。リビングへ戻る前にグラスと麦茶を用意して、椅子に座ろうとする。

「……怒ってるか、名前」
「あー?うん、…平気だと思うよ。なんかね、落ち着いた」
「そうか。…で、落ち着いたところで悪いんだが、」
「はい?」

龍之介の身体が机をすり抜けて、私に近づいた。ちょ、こいつ何やってんだ、とか思っていたら、目の前に龍之介の顔。ついでに私の腰と顎に手が回されて、お前いつのまに実体化した、ってそういうことじゃない。

「…ん、は…」

…うん、わかってるよ。またキスされてるんだよね。正直言っていいかな、逃げたい。その意思表示として胸を叩いてみるけど、当然のように反応は無い。呼吸が容赦なく奪われて、頭がくらくらした。
そして、ふ、と呼吸が楽になる。

「…すまん」
「すまん、って思うならひょいひょいしないでくれると有り難いんだけど…!?」
「それは無理だ」
「断言するなっての」

お前を見ていると、どうも…キスを、したくなってしまうからな、なんて、照れながら言う龍之介。いや照れるくらいなら言うなよ。私が恥ずかしいわ。

「…好きだ、名前」
「あーはいはい。私も好きだよ」
「投げやりすぎないか」
「恥ずかしいんだよ馬鹿」




ねえ、これってきっと
(幸せってこと、でしょう?)








どうもはじめまして、里緒です。
宮地が犬神設定で書かせていただきました。何故か犬神です。
そして何故かコミカルな感じになってしまいました。すいません。
設定生かせているかは謎なのですが、兎にも角にも楽しんでいただければ幸いです。
錫菜さま、参加させていただきありがとうございました。読んでくださった方に、最上級の感謝を。








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