もしも妖怪ならば。 | ナノ

たどり着く先は、


月が大きく光輝く夜。
部屋の明かりもいらないくらいに月が照らしている。
彼の耳も、尻尾も、牙も、そしていつもより紅く光る瞳も。


「し、四季くん……だよね?」
「ん…」


私たちはベンチに座って向かい合いながら喋っていた。
私の隣に座っている彼は、まるで人間には見えない。


しかし驚いた。
まさか四季くんが妖怪だなんて。
今まで全く知らなかった。
まぁ、当たり前と言えば当たり前だけど。
でも、こんな外見の妖怪は知らない。
だって…


「吸血鬼と、狼男と…」
「…人間。沢山の血、入ってる……俺の中に」
「そうなんだ!…だからふさふさした耳も、鋭い牙もあるんだね」


でも、狼男だったら満月に…とか。
吸血鬼だったら日光に当たると…とか無いのかな?
よく考えると、四季くんは満月も観てるし日光にも当たってる。
もしかすると、色々な血が混ざったせいでそういうのが無くなったのかもしれない。
こんな四季くんは初めてで少し怖い。
まるで私の知らない四季くんみたいで。


「あんた、怖い?……俺のこと」
「………全く怖くないって言ったら嘘になる…」
「…ん。そう……」


それだけ答えた四季くんは、私とは逆の方を向いてしまう。
怒らせてしまったのかなと、不安になった。
その証拠に、もふもふした尻尾が悲しそうにたれている。
あまりにも悲しそうだったので、私はその尻尾に手を伸ばした。
そして、そっと触れる。


「…っ……な、に?」
「ううん。何でもないから気にしないで」
「…わかった」


今度は尻尾ではなく、もふもふの耳が付いている頭に手を伸ばしてみる。
そうして、四季くんがいつも私にやってくれるように、私も四季くんの頭を撫でる。


「あんた、さっき言った。……俺のこと、怖いって。でも、なんで?」
と、私の方に向き直って、不思議そうに尋ねてきた。
怖いって言ったのにどうして四季くんに触れられるか、ってことだよね。
なかなか難しい質問をするな。
でも、たぶんそれは―――


「私が好きになったのは、“神楽坂四季くん”なの。…だから、たとえ姿が変わったとしても四季くんは四季くん。……そうでしょ?」
「…うん。あんた、やっぱりかわいい」
「しっ、四季くん!?」
「こうしていたい。……もう少しだけ」
「……うん」

こういうところはいつもの四季くんで、なんか安心する。
とは言うものの、抱きしめられるのはやっぱり恥ずかしい。
時折、四季くんは私の首に鼻をすり寄せる。
それが凄くくすぐったい。
しかもいつも以上に。
なんせ狼の耳が付いてるからね。
尻尾だって私の腰を包み込むように巻かれているし。


「…………ん…」
「どうかして…って、四季くん?」
「……むぅ……ん」
「寝ちゃった、のかな。……ふふっ。…可愛い、っ…な」

いきなり感じた、首元の違和感。
生温かい何かが首に触れたような。

「四季く、んっ…」
「……かわいい。あんたのほうが」

私の首筋に唇をつけたまま話すから、くすぐったくて恥ずかしい。

「まさか、寝てなかったの…!?」
「寝てない」
「じゃ、じゃあっさっきのは…」
「あんたの首、美味しそうだったから…。舐めたら甘くて美味しかった」
「舐めっ…?」

て、ことは。
さっきの生温かいものは、四季くんの舌だったの!?
思い出すだけでも倒れそうなんですけど…。


「…んー…恥ずかしい気持ち?………俺、あんたから沢山の気持ちもらってる」
「え……?」
「嬉しい気持ち。悲しい気持ち。好きになる気持ち。……でも、俺が本当に欲しいもの…」
「な、なに?……もしかして私の血、とか…?」
「ふふっ、あんたらしい。……それもそうだけど、もっと違うもの」

それだけ言うと、四季くんはふっと笑って。
優しく私を見つめ、私の頬に触れた。
まるで壊れそうなものに触れるように。

「あ、の…」
「……俺の欲しいもの」
「四季く…っ」
「それは、」


「―――あんた」


「へ?…って、四季くん顔がっ……」



月が大きく光輝く夜。
それに照らされた2つの影が重なった。
まるでそれを見守るかのように現れた12の影もそれに照らされていた。




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