a happiness argument
「僕、実は妖怪なんだ」
なんてある日突然付き合っている人に言われたらあなたならどのようなリアクションをしますか? How about you?
夢から目覚めたいなら自分の頬をつねるといいと言う。 実際夢の中でそんなことをする余裕というものがあるのか微妙な所だけど。
しかしながら、今の私にはその余裕というものがあるらしいので試してみる。
いい機会だから遠慮容赦無く引っ張った。 自分の事を妖怪だとかいう厨ニ病から抜け出せていない目の前のやつの。
+++++++++++++++
「酷いなぁいきなりつねるなんて…」
「いきなり僕は妖怪ですなんて言う方が問題ありますよ」
あの後、外で話すのもなんだからって誉先輩の部屋に連れて行かれた。
「で、妖怪ってなんなんですか。念のため言っておきますが、今日はエイプリルフールじゃないですよ」
「うん知ってる。それに嘘じゃないしね」
「…………………………」
なんだか頭が痛い。
まだ夢を見ているんじゃないかと思ってもう一度誉先輩の頬っぺたに手を伸ばすとやんわりと手首をつかまれた。
「だーかーらー、嘘じゃないって言ってるでしょ?」
「信じられないから確かめようとしてるんじゃないですかー。そんな見た目ばりばり人間で普通に学校に通ってる弓道部部長が何言ってるんですか」
常識的に考えて信じろって方が果てしなく不可能に近いだろ。
妖怪っていうんなら、見た目的特徴も欲しいわけで、そんな見た目100%で言われても……ああ、もう自分が何を言ってるのかがわからなくなってきた……。
「つまりは、見た目が人間じゃなかったらいいんだね?」
「そうですね」
なんて言った瞬間、先輩のいる辺りからブワッと冷気みたいなのが出た。 そして気がついたら
「し、しっぽと耳…?」
誉先輩に猫のようなピンと立った耳と9本のフサフサしたしっぽが生えていた。
生えていたなんておかしな表現だけど、それ以外の表現の仕方を知らないからしょうがない。 恨むぞ、マイボキャブラリー。
「これで信じてくれた?」
脳内がフリーズしている間に私の目の前にはいつの間にか誉先輩がいて、そんなことを言うもんだから無意識のうちに後ずさりしていたらベッドのふちに膝裏が当たってベッドの上に座る形になってしまった。要するに膝かっくん。
まぁ、妖怪って言っても人間を取って喰うみたいなことはしないから大丈夫だよ、なんて先輩が言ってる気がしないでもないが、それどころじゃない。
こんな非科学的なこと信じられるか、と思いながらも目の前に突き付けられた現実に納得する他なく、ただただ目の前にある誉先輩の顔を見ていた。
「名前ちゃん」
気付けば先輩の顔は真上にあった。 いつの間にか押し倒されていたらしい。
「…先輩さっき取って喰わないとかなんとか言ってたじゃないですか」
「そうだね」
「いや、そうだねって……。てか、私に嘘か本当かは置いといて自分が妖怪だなんて言って逃げ出すとか考えなかったんですか?」
「名前ちゃんはこんなことで離れて行くような子じゃないよ。逃げ出すような感じの子でもないし。そうでしょ?」
なんか引っかかったがまぁいい。
「そうですね。例え妖怪でもなんでも先輩は先輩ですし、どんな先輩でも私は大好きです。だから…」
私は先輩から離れたりしません、と言おうと思ったのに口を塞がれて言う事ができなかった。
先輩からこんな形でキスされたことがなかったから内心驚きつつも冷静でいる自分がいた。
「……ありがとう」
名残惜しそうに私から唇を離した先輩は、なぜか寂しそうな、泣きそうな笑顔だった。
――――――――――― 無駄に長くなってしまいました。 最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。 冷静に突っ込むヒロインを書きたかったんですが、難しいですね。でも楽しかったです。ありがとうございました また機会があれば参加させていただきます。
≪|≫
|