if I was...
「ふぁ〜。」
今日何回目のあくびだろう。 最近ずっと生徒会で忙しくて、すっかり忘れていた課題。放課後に残ってやっていたけどいっこうに終わる気配は無く、気づけばもう日も暮れかけていた。
「結構分からない問題あるな〜…。」
こんな事なら一緒に残ってくれると言った錫也を帰さないで教えてもらえばよかった、なんて考えて時計を見る。
「もう六時…か。」
そろそろ生徒は下校の準備を始める頃だから、やっぱり錫也を帰して正解だったかも。 まさかこんなにかかるとは思ってもいなかった。
「でもまだ終わってないんだよな〜…。」
はぁ、とまた溜息をついた時、ガラッと教室の扉が開く音がしてそちらに振り向くとそこには星月先生が立っていた。
「なんだ夜久、まだ帰っていなかったのか。」
「星月先生!先生こそ何をしているんですか?」
「ん、ちょっと職員室に用事があったんでな、その帰りだ。」
そういえば先生は結構な量の書類を持っている。
「重そうですね、手伝いますよ。」
「いや、女子に手伝わせてどうするんだ。それよりお前のほうは良いのか?」
机の上を見て、終わっていないんだろう?と聞かれてふと現実に引き戻された。 そうだ、まだ数問残ってたんだ…。
「…分からない問題だったのでもうあきらめよかなって思ってたんです。」
「俺で良ければ教えてやろうか?」
「え?」
思わぬ事を言われてしまい、ぽかんとしていると「俺だってそれくらい教えられる」と言って持っていた書類を近くの机に置き私の隣の席に座った。
「ふ〜ん、なるほどな。で、お前はこれのどこが分からないんだ?」
少し問題を見て星月先生はもう理解してしまったのか、唖然としているのもつかの間、どこが分からないなんて聞かれても…
「全部、です…。」
正直に答えるしかない。 星月先生は「はぁ。」と短い溜息をつくと立ち上がって教壇に立った。
「まったく、しょうがない奴だな…今から解説してやるからしっかりと見ておくんだぞ。」
□ □ □
最初は星月先生に解説なんて出来るのか、と少し不安な所もあった。 だけど問題を見ながら黒板に数式をすらすらと書き始めた先生を見て、そんな不安は一瞬で消え去った。
なんて分かりやすい黒板なの。
普段の星月先生から想像も出来ないほど綺麗は黒板で、思わず「保健室もこれくらい綺麗に整理できればいいのに」何て考えてしまった。
そして黒板を書くのに邪魔だ、と白衣を脱いでしまった先生はもういつもの先生じゃなくて、何だか不思議な気分になった。
高い身長にすらっとのびた手足、スラスラと黒板を書いている樣はとても絵になっていて、私はもう問題の事などすっかり忘れてしまっていた。
「おい、ちゃんと理解しているか?」
「はっ、はい!」
だいたい黒板を書き終わった先生が振り返って聞いてきたので、私は慌ててノートを取り始めた。
先生が書いてくれた通りに問題を解き進めていくと、何でこんな問題が分からなかったのだろうと不思議になるくらいスラスラと解けた。
「できた!」
わからなかった問題が解けた事が嬉しくて思わず大きな声を出してしまった。 すると、教壇に頬杖をついてこちらを見ていた先生と目が合い何だか急に恥ずかしくなってしまった。
「どれ、見せてみろ。」
そういって私の解いたノートをぱらぱらとめくり「よし。」と言って先生が笑いかけてくれた。
その笑顔もいつもの星月先生とは何だか違う気がしてこそばゆいような不思議な気持ちになった。
きっと星月先生は保健医じゃなくて教師だったら、こんな感じだったんだなって。
「あ、あのっ、ありがとうございました!」
いつもと違う雰囲気に緊張してしまいだいぶ噛んでしまったけど、先生はまたにこりと笑って「どういたしまして。」と一言返してくれた。
そのまま教壇まで戻った先生は、白衣を羽織っていつもの先生へと戻ってしまった。
なんだかちょっと寂しいかな。 でも、今日はちょっと得した気分。 いつもと違う星月先生の一面を見られるなんて。
ふふっ、と笑うとそれに気づいたのか先生が「どうした?」と聞いてきた。
「先生に教えてもらえて嬉しかったんです。」
「教えるだけでそんなに世喜んでもらえるなら、またいつでも教えてやる。」
そう言ってふわり、と笑うと教室を出て行ってしまった。
しばらく楽しかったひとときの余韻にひたっていると最終下校のチャイムが鳴り、慌てて帰りのしたくをする。 教室を出ようとした時にふと気づいた。
「…ほんと先生は相変わらずですね。」
先生が教室に忘れていった大量の書類を持って私は教室を後にした。
もし星月先生が教師だったら。
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