もしも教師ならば。 | ナノ

レンズ越しの哉太には


彼の名前は七海哉太。喧嘩早くて子どものように無邪気。
本当に私と同い年なの?って疑いたくなる時もある。私がそう言うと彼は「馬鹿にするんじゃねぇー!」とか言って殴りかかりそうになるけどそれはしない。どこかで錫也が見ているからとか言いがかりをつけているけど実はそうじゃない。哉太は女の子には絶対出さない。まあ、女相手なら当然な訳だけど。


「一眼レフってレンズを調節するの難しいよね。それに重いし」


天体に興味があって私は星月学園に入学して錫也や宮地君達と同じ国立の大学を目指していた。天文学に力を入れていて魅力的だった。でも、国立だから当然勉強は大変だった。センターも高得点取れたからいけると思ったんだけど僅かに届かなかった。私はその大学以外は魅力を感じられなかった。
そんな落ち込んでいる時に哉太に写真を撮られた。


「名前の写真1枚と〜ったと」
「ちょっと!人が落ち込んでいる時に何撮ってるの!」


最悪。どうして哉太はこう空気が読めないの。
ああそうか。哉太は大して勉強をしていないからだ。
ムカつくけど羨ましかった。好きなことをとことん追求して学べるんだから。
天文学以外興味がある物って何だろう。これから私はどうすればいいんだろう。



「・・・・・・名前さ、写真って興味あるか?」



私を見ないで哉太は言う。レンズから私の顔を見ているのだろう。そして、また1枚パシャッ。だから、もう止めてって言ったのに。


「写真は撮るのも撮られるのも嫌いじゃないかな。でも、それがどうして?」
「ん?お前さえ良ければ一緒の学校の通いてぇなぁって思って・・・・・・なーんて言うわけないだろ!」
「だったら、最初から誘わなきゃいいじゃない」
「けっ。俺様は国大落ちて可哀想な名前ちゃんに折角声かけてやったんだぞ。少しは感謝しろ」
「意味わかんない。・・・哉太にちゃん付けさせると寒気がする」
「寒気がするとは何だ!」


きぃぃ〜と甲高い声で反論すると錫也が止めにやってきた。錫也がやってくると喧嘩はぴたりと止まるから不思議。実際は錫也に逆らえないからだけど。

「はいはい。そこまで。でも、哉太のいうようにお前はこれからどうするんだ?」
パンパンと手を叩いて錫也が間に割って入る。
私は目を瞑って考えてみた。

「あの大学以外の天文学は考えてなかったからなぁ」

次に興味にあるものは何?
そう考えたら、やっぱり哉太と同じく写真だった。この際、星から離れて写真について勉強をするのもいいかもしれない。それに哉太と同じ学校だったら安心だろう。
こうして私は哉太と同じ専門学校へ行く事にした。



***



「結局、お前とまた同じ学校かよ」
「何それー。哉太が懇願するから入ってあげたんじゃない。全く失礼しちゃうんだから!」
「お前勝手に改ざんしてるんじゃねぇ!俺は希望を与えてやったんだろうが!」


高校の時なら錫也からストップコールがかかるけれど言い合いしても止める人はいない。むしろ、みんなは面白がって見ている。
お二人さん熱いねぇ、ヒューヒューって。
もう、そうなんじゃないっていうのに。


結局、私達は高校の時と変わらないまま。


で、最初に戻る訳で。


「何で名前デジカメにしなかったんだ?」


基礎教養科目については私が哉太に教える事が多いけれどカメラに関しては明らかに哉太の方が知識豊富。学校の先生より詳しいんだじゃないかって思った事も。これは悠哉さんが残してくれた資料や幼い頃から悠哉さんが写真を撮っている姿を見てきた哉太だからこそだと思う。小さい頃の事だからわかんねぇよとか言ってるけど体はしっかりと覚えている。

哉太に何故、デジカメにしなかったんだと聞かれてちょっと驚いた。まさか理由を聞かれるとは思ってもみなかったのだ。


「んー、何となく。格好いいから!」


デマカセの理由を口にする。
本当の理由を言ってしまったらどうなるのか。後の事を考えると少し怖くなったから敢えて誤魔化した。反対に何故デジカメにしなかったと聞いたのか気になった。


「なんだそんな理由かよ」
「そんな理由って・・・・・・別に私の物なんだから本人の勝手でしょって・・・・・・っ」


いつの間にかカメラを持っていた手を重ねられた。
キュッキュッとレンズを整える音。黙ったまま哉太に任せた。こんなに近い事なんて今まであったのに体から少し合わさっただけで心臓がドクンドクンと激しく拍っている。


「な、何してるの」
「お前さ、なーんもいじってねぇだよ。ダメな生徒の為に俺が先生となって調節してやってんだ。有り難く思え」


理由は無茶苦茶。カメラに関しては私は無知識だからお手上げ。哉太先生の手つきを見ているだけで精一杯。
出来たと言ってカメラを持ち上げる。


「これで大丈夫だ。名前ファインダーを見てみろ」


言われるままにファインダーに目を近づける。
周りには色づいた景色、当たり前の光景。ブルブル震えながらシャッターを切る。
カシャッと音がすると何だか気持ちが良かった。写真を撮るのがこんなに楽しいものなんて知らなかった。

あっ、そうだ!と思いカメラを哉太に向ける。

「おい、名前。何やってるんだよ」
「ふふっ。哉太を1枚撮ってあげようと思ってね」

ファインダー越しで見る哉太はなんとも新鮮なものだ。普段自分が見ている当たり前の哉太と少し違って見える。

上手く言葉で言い表せないでけど、キラキラ輝いていて見える。

あれ?
哉太ってこんなにカッコ良かったっけ。

「何企んでかは知らねぇけどあんまりジロジロ見るんじゃねぇよ。少しはこっちの身になってみろ。その・・・女にジロジロ見られてたら・・・・・・たまんねぇって」
「ちょっと哉太大丈夫?頭打った?」
「どうなったらそうなるんだよ!」
「その言い方だとどうも女の子を口説いているように見えるから。さては哉太君、女の子に飢えて仕方が無いのだな。私はその練習か。そういう事なら任せて!協力するよ!」

私が協力するというと溜息をつかれた。

あれ?外れたかな?



「唐突に言い出すのは・・・・・・意味不明な言葉、か」


手首を掴まれてぐいっと引き寄せられる。私の目の前にいるのはいつも知っているとは違う哉太だ。哉太も男の子なんだ。

このままだとキスされる。


「哉・・・っ」


「ばーか。キスなんてしねぇよ」

吐息がかかって、あと少しで唇が触れるぐらい。寸止めで終わった。

「な、なんだぁ」

ほっとしたのか足を崩してしまった・・・が、哉太が抱きかかえててくれた。

「なんだってどういう事だ?名前まさか本当にキスされると思ったのか?厭らしい奴」
「ち、違うもん!ちょっとドキドキしただけだよ」

あ、また余計な事を言った。次は何て言われるだろうと思って哉太を見たら赤くなっていた。1人でぶつぶつ「そうか」と言ってた。変な哉太。

「お前は俺にこのままキスされてもいいと思ったのか?」

また私に顔を近づける。私は慌ててカメラで顔を隠した。なのに哉太はカメラを取り払おうとする。必死にカメラにしがみつくけど力強い哉太の握力には叶わない。


さっきの聞かれた質問に答えてみる。


「私は哉太にならキス・・・・・・されてもいいかな?」


冗談のつもりだった。


「するか」
「へ?何を?」
「キスをだよ」


ほ、本当にキス・・・・・・するの?
私があたふたすると哉太が頬に手を添える。


「その前に聞きてぇんだけど、ファインダーから見た俺は名前からはどう見える?」

そう言って哉太の唇に触れた。

カメラに染みついた哉太の匂いが私にも移った気がした。









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