視界に映るのは
今日も溜め息が出るほど、青空先生は綺麗だなあ。 風にかすかに揺れる桜色の髪に、それが映える白い肌。線は、一見細く見えるけど、しっかりとした男の人の身体。ピアノで綺麗な旋律を奏でる細くて長い指。女の私よりも綺麗なんじゃないかというくらい、綺麗。
「…夜久さん?」
「……」
「夜久さん!」
「…っは、はい!」
「…話、聞いてましたか?」
「き、聞いてました!」
そう私が言うと、ふう…、と溜め息をつく先生も綺麗。…って、見とれてる場合じゃなかった。私は授業中もこんな感じなので、レポートの期限を聞き逃し、そして期限を守れなかったのだ。
「とにかく、残って仕上げてくださいね」
「…はい」
錫也と哉太は一緒に残ろうか、と言ってくれたけど、自業自得なので先に帰ってもらった。
はあ…。居残りじゃなくて青空先生の補習だったらなあ。でも、少し話せたし、いっか。 先生のことを思い浮かべると、自然と笑顔になる。私自身、呆れるほどの乙女思考だ。でも、彼に対してならそれも悪くない。むしろ、嬉しいと感じる自分がいる。
「…できた!」
先生のことを考えながらもできたレポートをあとは提出するだけ。先生いるかなあ。
ふと気付くと、夕日が沈みかけていた。早く帰ろうと思い片付けをしていたら、教室の扉が開き、そこにいたのは青空先生だった。
「先生!」
「レポートは、できましたか?」
いつものように優しい微笑みを浮かべている先生を見ると、自然と私の顔が緩んでくる。
「はい!…あの、先生はどうしてここに?」
「少しあなたとお話をしようと思って。少し、お時間よろしいですか?」
「っはい!」
先生が、私と、お話!先生がそんなこと言ってくれるなんて夢みたい!そんなの私、時間なんていくらでも割きます!
「先生、お話って?」
「最近、あなたはぼうっとしていることが多いですよね」
「え、そ、そんなこと…」
浮かれていたけど、先生の口から出たのは教師としての言葉。 私はそれに少し落胆を感じながらも、先生が私の様子に気付いていたことへの驚きに、私は言葉を詰まらせた。
「何か悩み事でもあるんですか?」
「そ、そういうわけじゃ…」
「あなたは、分かりやすいですね」
「え?」
先生の脈絡のない言葉を私は理解できず、呆けた声を出した。
「僕が気付いていないと思っていたんですか?」
「な、何がですか?」
もしかして。 息がつまる。心臓がうるさい。
「あなたは僕のことが好きなんでしょう?」
「っ…」
息が止まりそう。どうしよう、どうしよう。どうすればいい? いきなりのことに混乱して、涙がこぼれそうだった。
「…あなたは本当に分かりやすいですね」
そう言って、指で私の涙を拭ってくれた先生は、穏やかに笑っていた。
「誰も僕があなたを嫌いだなんて言っていませんよ?」
「それって…」
先生の言葉に混乱していた時とは違う風に高鳴る胸。
「あなたがレポートを忘れてくれて良かったです。愛してますよ、月子さん。…返事は聞くまでもなさそうですね」
そう言って、彼の綺麗な顔が私に近づいてきて、私達は、キスをした。
視界に映るのは (これからも私の視界に映るのは、あなただけ)
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