金色の糸






金色の糸を辿る。
絡まらないよう、台紙代わりに用途が全く違うDパッドにくるくると糸を巻いていきながら公園やショッピングモールを歩いていけばやがて、行き着いたのは凌牙がよく知る場所。

「は……?此処は、アイツが住んでる所じゃねェか」

大会の頃まで高い塔の先にハートのオブジェクトのようなものがあった、ハートランドシティのシンボル的な場所だった塔へと金色の糸は続いていた。今は激しいデュエルにより先端は崩落し、工事中だが塔の内部は住居部分として悠々自適に住んでいる親子がいる。
凌牙は住んでいる親もその兄弟もよく知っていた。特に兄の方とは意外と日常的な思考が似ている節があり、なんやかんやで会話が増えてきていた。
が、何かの間違いだろうと思う。

「アイツは俺の事なんて、内心じゃ嫌ってるだろ」

糸の色からして彼以外には有り得ないが、凌牙はそう呟き表情を消して目を伏せる。

彼は、カイトは。デュエルに関しては良くも悪くも一直線に人を見る男だ。手合わせをすれば、圧倒的な戦略で相手を正面から射貫き、発動した罠も魔法も一時凌ぎにしかさせない。
……そんな考え方が嫌でも分かるからだろう、カイトと言葉を交わせば、過去の大会で犯した罪が心の内を掻き回してくるのだ。

何をやっているんだか。
馬鹿らしいとDパッドから毛糸玉のようにくるくるに巻いてきた糸を引き抜く。

「……は、あ?」

糸の山は地面に落ちても形を保ったまま、ハートの塔へと続いていた筈の糸は真っ直ぐ真上へぴんと伸びていた。その時、ふっと凌牙の真上に影が落ちる。影の正体を認識した瞬間、凌牙はぽかんと口を開け、目を丸くした。

「やはりお前だったか、凌牙」

ざ、と機械の翼を折り畳み、元の形になったオービタルを引き連れ、目の前で手を腰に当て此方を見る。

「何でいやがる」

「入り口には防犯カメラが付いている。監視していたオービタルがお前が居ると報告に来たんだ。……で、一体どうした」

わざわざ出てきたのかと呆れながらも、内心、カイトの双眸に臆病になる己がいる。

「エレベーターを使って来い」

「億劫だ。それで、用件は」

「……何となく、来ただけだ。悪ィなつまんねぇ理由で」

糸の事など口にできる訳もなく、適当に取り繕い早くこの場を去りたくなった。
引き返そうと踵を返した身体はカイトの手によって腕を掴まれて阻まれる。危うくバランスを崩しかけたが、見事に背後の男に身体を支えられ、詰めた息は安堵に変わった。

「な、にしやがる!」

「貴様が急に帰ろうとするからだ」

振り返ったカイトは不機嫌に顔を顰めている。
……そんな顔をするのなら引き留めなければいいのに。と思い出してしまえば、無性にこの空間が息苦しく感じた。

「俺の事を嫌っているならちょっかいをかけてくるな!」

語気が強くなる。
離せ、と腕を振るが何故かカイトは離してはくれない。凌牙とは逆に、掴んで離さない彼は不思議そうな顔をして器用に片方の眉をあげる。

「嫌い?ならばこうして降りてきたりはしない。否、嫌いというよりは、俺はお前に興味を抱いている」

「は……?テメェだって俺の過去の過ちくらい知ってるだろ。カイトが嫌いな姑息な手をよ」

「昔など些末な事だ。俺は今の凌牙、お前の物事に対する姿勢を好いている」

す、と灰色の瞳が柔らかな気配を湛える。嘘ではないと彼の持つ気配が伝えてくる。
何より、カイトの言葉に胸が苦しくなる程嬉しいと思う凌牙自身がいて。

「馬鹿だな、カイト」

「その口の悪さと好戦的な所も惹かれているがな」

解放され、カイトと向き合えば意地悪くそう言われた。まるで凌牙の反応を楽しんでいるようだ。
微かに赤らむ頬を背けながら、凌牙は金色の糸が結ばれた小指をそっと包むように片手で触れる。

案外、運命の糸と言うのも嘘ではないらしい。


金色の糸はカイトへ辿り着いた。




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