選択肢へとぶ





昔から凌牙にはデュエル以外にもうひとつ、奇妙な才能があった。
例えば街中ですれ違う人々のその指に、手芸で使うような細い糸が見えたりするのだ。巻き付く色は様々で、十の指がカラフルな人間もいれば一本も糸がない人もいて。
幼い頃には意味など全く解らなかったが、知識が増え人間関係が広がるとそれの意味が徐々に理解できた。
その巻き付く糸は、本人と本人の何かしらに関係のある誰かを結ぶ、見えるはずのない繋がりのようらしい。
そのことに気付いたのは璃緒が大怪我を負った日のこと。意識が戻らない彼女の傍らで祈るように両の手を組んだ凌牙の中指から伸びていた糸は、床を伝い璃緒の中指に繋がっていた。色は紫。二人を象徴する色をしていた。
何度呼び掛けても目を覚まさない妹は確かに無事なのだと、繋ぐ糸にそっと手を触れると、不思議と安堵した。

糸は凌牙にしか見えず、そして自身の指から伸びるものだけ触れる事ができる、この才能、否、能力。
Wに負けたあの大会決勝の後、凌牙から伸びていた何本かの糸は複雑に絡み合い、色が混ざり醜く黒ずんでいた。辛うじて、璃緒との糸だけは絡まりから外れており、凌牙は自分の周りの反応が変わったのだといち早く理解する。
あんな事をしたのだから当たり前だ、と自嘲しながら璃緒の入院する病院の屋上で鋏をポケットから抜き出し、そして。

ショキン、と指先から絡まる糸全てを切り落とした。
璃緒以外を残し切った糸は風に吹かれ、やがて消えてしまう。
切ったからだろう、繋がりのあった同級生達は皆凌牙と関わり合いになりたくはないという目で凌牙を見てきた。

凌牙自身に繋がる糸ならば誰の元に繋がっているのか知れるし、その繋がりを断つことも可能なようだ。
味方はいない。さっぱりとした指を見ながらその考えは確信めいていた。

案の定、確信は真実になっていく。凌牙は学園で孤立し、カードに心を黒く染められもした。復讐にだって身を投じた。
だが、大会の最中、ふと己の人差し指に目を落とせば見慣れない明るい赤い糸が結ばれていることに気付く。邪魔だと、前にしたように鋏で糸を切ろうとしたが、その繋がりはまるで鋼のワイヤーのように固く、刃が通らない。

切れないのは当たり前だった。明るい赤い糸は必死で凌牙の暗闇に訴えかけてくれた遊馬の糸だったのだから。遊馬との繋がりが、凌牙を段々と明るい方へ導くのは切れない糸があったからだ。

大会も終わり、璃緒も無事に学園生活に復帰すると、いつの間にか凌牙の両の指には様々な色の糸が、絡まる事なく綺麗にたゆたっていた。

「――」

目元を弛め糸に触れる。鋏は……もう必要ないだろう。

「?」

ふ、と左の小指に目が止まる。そこには、他より目を引く糸が丁寧に結ばれていて。
昔、璃緒が運命の赤い糸の話をしていた事を思い出した。
運命の相手。何となく、そのフレーズに興味を惹かれた。この糸を辿って行けばその人物に会えるだろうか。


凌牙は、



金色の糸に触れた
琥珀色の糸を引いた

白色の糸を手に取った




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