・男主くんが彼の消失に気付いたらIF

いつもと変わらない朝がくればよかったとベッドから億劫そうに躯を起こした少年は苦い顔で強く目を閉じた。
クローゼットからワイシャツを出して釦を止めスラックスを履き終えると、ハンガーにかかっている制服に袖を通す。

……本当に、いつも通りの毎日が続けばよかった。

制服を粗方着終えると、洗面台の鏡で適当に制服と髪を整え身仕度をこなす。
鏡に写る己の姿は随分と顔色が悪そうだ。寝付きが悪かったのが原因か、――否、違うだろう。うっそりと目の下で存在を主張する隈を掻き消すようになぞる。

鏡からそっと目を逸らし、重い足取りでリビングの椅子に座る。ずっと、頭の中で警鐘が鳴り響いているかのような錯覚がする。その所為で朝食を摂る気にはなれなかった。

「――かみしろ、」

は、と息と一緒に零れた名前は、擦れた声。今にも泣きだしそうな、そんな震えを含んだ声に少年は一人自嘲する。


夕陽が真っ赤に沈みかけていたあの日、見舞いに行った少年の目に広がっている光景は電源の落ちた医療機器と、無人の病室だった。
神代璃緒の病室はもぬけの殻だったのだ。花瓶に生けてある花は花弁が散り落ち力なく頭を垂れて枯れており、まるで時間が進み病人も家族も消えてしまったような感覚に心の底が氷漬いた。
無意識に凌牙のDゲイザーへメッセージを送ったが、連絡は来ないまま。日が沈み、こうして自宅へ帰宅し朝が来た。

連絡は、未だない。
その現状はまだ続いている。

どくり、と胸が脈打つ音が酷く耳の近くで聞こえた気がして、息が詰まる。
彼等は、どこにいってしまったのか。不安がとめどなく胸に打ち付けてくる。

「俺を、置いていくなよ……」

喉から落ちた言葉は、嗚咽のようで懇願にも似ていた。苦い苦い感情をぐるぐるに溶かして吐いた言葉は誰に拾われる事もなく、明るい朝日が射し込む部屋に消えていく。

「凌牙、りょうが……!」

それが、無性に悲しくて悔しかった。



少年の祈りは届かない




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