・自由研究と食い意地について
「凌牙は生真面目だなぁ」
八月中旬。水族館にて。
凌牙の付き添いと言う名の暇潰しで着いてきた悪友が隣でからからと笑う。薄暗い館内はいくつもの水槽が壁に埋め込まれていて、人の雑音を除けばとても幻想的だ。
「おお……水族館産タラバガニ……」
「喰えねぇぞ?」
「ちぇっ」
そう言えばさっきも、鰯玉を見た彼と「採りたての炭火焼き」「喰うな」のやり取りをしたばかりだ。水族館で食欲を全面に押し出すほど餓えているのかと内心頭を抱えたが、当の本人はどこ吹く風か、たらば蟹と睨み合いをしている。
「いいか、俺はここに自由研究の課題をこなしに来てるんだからな。邪魔はすんじゃねェぞ」
「知ってる知ってる。だから真面目って褒めたんだよ」
「…さっきのは褒めてないだろ」
電子画面に文字を打ち込みながら凌牙は水槽を眺める横顔をそっと盗み見た。
ふっ、と彼が目元を緩めて口角をあげるのが目に入る。
「……味付けはぽん酢がいいな」
あ、こいつ懲りずに食い意地張ってやがる。
どうやらこの男には、人気のデートスポットだとか幻想的な空間だとか持て囃される水族館も寿司のネタが泳いでいる様にしか見えないらしい。
これは早めに切り上げて、行きたいとごねていた近場の魚介イタリアン料理を扱う店に連れていくしかないようだ。