更柊様リクエスト/パロ



雨が降っている。駅の改札を抜けると、やはり車窓に打ち付けていた雨粒が止まずに降り続いていた。しとしとと薄灰の曇天なんだろう上空から幾つもの雫が落ちて傘でぱつん、と跳ね返る。

雨か、と駅の出口に立ちながら傘を伝う雫を見る。日が落ち人工の明かりが静かに駅周辺を照らし、迎えや帰省といった人のにぎやかさの中、雨を降らす空を見上げる。
――確か今日は七夕だったか。
天の川、とまでは行かないが夏の大三角形も仄かに明るい月も厚い雲に隠れ見られない。夜空をこうして意識して見上げる機会はあまりにも少ないというのに残念だと、駅の出口に飾られていた笹の葉を一瞥し傘を揺らす。

雨足が強まった気がするが、凌牙はいつも通りに雑踏に紛れ歩きだそうとした。

「――そこのフロイライン」

「ッ はぁ……?」

傘を持つ手とは反対側の通学鞄を掛けている方の肩が不意に叩かれた。
お嬢さん、などと見当違いな呼び方をされ雨粒が飛ぶのも気に掛けずに振り向いた先には、曇天の雲よりもずっと澄んだ色の瞳を持つ男。

「このままだと雨足が強くなる、その美しい顔も髪も濡れてしまうだろう?」

「……ああ。雨は強くなりそうだな――カイト」

異性が見たらとろけそうな位に優しい微笑みを向ける姿に、思わず後退りしてしまった。うわ、とげんなりしながらも、それはもう別人の如く接されるのに微かな不快感を抱く。
やめろ、という意味を込め凌牙は仕方なく彼の名を呼んだ。
途端、とろけそうな笑みは一瞬のうちに何処か上から目線な不敵な笑みに変わり、クツクツとカイトは喉で笑った。彼は気にしていないようだが、車から歩いてきたのか服が僅かに雨で濡れ始め、アッシュグレイの眸の片方側にも雨粒が伝う。

「……お前傘は」

「ああ、持ってくるのを忘れていた」

「馬鹿か。――たく、半分だからな」

さしていた傘へ彼を招き入れると、カイトはふっと目元を弛め柔らかくする。ハルトか凌牙にしか見せない表情に不意を突かれ心臓が跳ねる。カイトに柄の部分を持たれると、身長の所為か前方の視野が広がっていた。

「車を留めておいてある、乗っていくだろう?」

鍵を取出し問われると、凌牙は首を縦に頷き当たり前だと降り止まぬ空を仰ぐ。



「……凌牙、そう言えば今日は七夕らしいな」

運転をしているカイトが揺れるワイパーを見ながら思い出したように口にした。助手席に身体を凭れ、ぼんやりと流れる街並みを見ていた凌牙は目を擦り、頷く。

「つっても、日常は変わらないけどな。しかもこの雨だ、アルタイルもベガも見れないぜ」

「フ、今頃年に一度の逢瀬を誰にも見られずにいるんだ、これ以上の幸せはないぞ」

「……お前も大概、ロマンチストだろ」

あれは伝説だ、と凌牙が笑えば丁度車が赤信号で停止した。
そしてカイトの腕がそっと凌牙の頭を引き寄せ、耳元に彼の唇が寄り吐息と甘い声音が零れる。

「夜空でも逢瀬を楽しんでいるんだ……俺達だって恋人同士の時間を楽しんだって罰は当たらない、違うか?」

「は、お前……っん」

流れる動きで顎を掬われ、カイトの薄い唇が重なった。
直ぐに唇は離されたが、今のキスでは物足りないと凌牙の心がざわりと熱を上げる。それは、きっとカイトも同じで、運転をする真っ直ぐな視線は熱を静かに迸らせていて。

「っ、ハルトは、」

「遊馬とVと一緒に今日は過ごしたい、と連絡があった。ウチに泊まるらしい」

「――ッじゃあ、この車の行き先は」

ばっとカイトの方を向いた凌牙に、彼はしてやったという顔でウィンカーを出しながら口角を上げ。

「二人で夜を過ごせる場所に決まってるだろう、凌牙」

二人の家がある場所とは正反対の方に曲がり、凌牙があまり見慣れない街並みの中をカイトは迷いなく車を走らせた。



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更柊様リクエストの送り狼カイ凌でした。
送り狼と言う単語が初耳でしたのでググる先生とにらめっこしていました…。送ると見せ掛けてホテル直送させてみました。
リクエストありがとうございました。






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