(多分)学パロ/レイミ様リクエスト/七夕祭り/女装凌牙




七夕祭り、とカラフルポップな字体で描かれている看板を眺めていると、無意識に眉間に皺がよる。町内で催される七夕祭りとあって所狭しと笹が飾られ露店もずらりと並んでいるのだが、今年も更に賑わいをみせているようだ。

毎年の事なので多くの人が露店の並ぶ道へと笑顔を浮かべ参加していく中、脇道にそれた曲がり角に凌牙は居た。綿菓子屋の低い電気音やお好み焼き屋の香ばしい香りが五感を刺激するが、少しも気分が上がらない。寧ろ降下し、不機嫌に拍車がかかりそうだ。

「……はぁ」

どうしてこうなった。と、出かけた言葉は溜め息に無理矢理変換した。溜め息すらも、帯できっちりと締められている為にするのが少し苦しい気がする。

凌牙が不機嫌な理由、一番は彼の今の装いにあった。

深い紫をベースに沢山の綻ぶ花をあしらった柄の生地と、落ち着いた白地の帯。毛先が跳ねていた髪はふわふわとした可愛らしい髪留めで纏められ一つに括られてしまって。
――装いは、どうみても女性物の浴衣だ。何故それを着ることになってしまったのかと言えば、待ち合わせ相手片方の知り合いである女性に押し切られた、とだけ言っておくことにする。……押し切られたというよりは抵抗虚しく着せ替え人形にされたのだが。

兎も角、只でさえ恥ずかしい姿だというのに待ち合わせよりも随分早めに着いてしまっている凌牙は、早くも帰りたくて仕方なくなっていた。だが羞恥を伴いここまで我慢しているのだ、露店で幾つか奢ってもらう約束だけは果たしてしまいたいという気持ちが勝る。


「――すまない、待ったみたいだな凌牙」

「悪いなXもVと行くって言い出して、てんやわんやだった」

「……! カイト、W」

暫くして、カランと下駄の音が二つ聞こえ顔を上げるとそこには待ち合わせていた二人の姿があった。
どちらも着崩していない和装でカイトは墨色、Wは紺色と、凌牙からみても似合っていると思える出立ちをしていた。

「……そんなに待ってねぇよ」

「そう、か……」

「ああ……」

男性用の浴衣を羨ましいとじっと見る凌牙と同じく、がらりと違う雰囲気を纏う凌牙へ二人の視線が釘付けになり、カイトとWは凌牙の姿を頭から爪先までやけに真剣な面持ちで見つめてしまう。

「カイト。……いいな、良く似合ってる。コレばかりはお前の粋な計らいに感謝してやる」

「貴様に見せてしまうのは癪だったが……まあいい、ドロワも愉しかったと言っていたしな」

これ以上見ていると気付かれる限界まで見納め、微かに目元を赤らめる凌牙に笑みを一つ送り、二人は彼の元に近づきながらぼそぼそと小声で刺のついたやり取りを交わした。

「なん、だよ?」

「いいや、凌牙のその浴衣も似合っていると話していただけだ」

「嬉しくねぇ誉め言葉だな、カイト……」

やはり恥ずかしかったようで睨まれてしまったが、上目遣いに近い見え方だったので悪かったと凌牙の髪をぽんぽんと撫でてカイトはやんわり口角を上げた。


「――凌牙、お前は何処から見たい?」

「クレープがいい」

カイトとWに両脇を挟まれ自分の浴衣姿に劣等感を抱きつつも、何がいいかとWに聞かれた凌牙は即答を返す。
あまったるいバニラエッセンスの香りに釣られたらしく、数メートル先のクレープ屋へ行く凌牙の足取りは軽そうだ。

「待て、」

「は、カイト?」

「これだけの混雑だ、数メートルでも見失うからな」

するりとカイトから伸ばされた腕は、紫の袖から覗く凌牙の手を絡め取った。
目を丸くする凌牙、先を越されたと目が笑っていないW。
手を引かれ奇妙な空気が流れる中、カイトがクレープを奢ってくれた。とりあえずは凌牙の目的は半分達成だ。

「ブルーベリー、美味そうだな」

「ああ。やらねぇからな。Wは……チョコレートか」

「ん、一口食べるか?」

ブルーベリークリームのクレープを頬張ると、Wがククッ、と笑いチョコレートソースがかかったクレープを差し出してきた。チョコレートも気になっていたのもありWのクレープの端を一口、口にすれば甘い中にほろ苦さが広がる。

「そっちもよかったな。……ん?カイトは、」

「キャラメルだ。――いるか」

「ハルトの土産用に味見してやるぜ?」

「ほら」

そして一口、彼からも貰ってしまった凌牙はふ、と頬を弛めた。三食の違った味を食べられてご満悦だ。

Wはたこ焼きを買ってくれたらしく、今日の礼だと袋に入ったパックを渡された。

カサリと葉が揺れる飾り笹の隣で、凌牙は夜空に大輪の華を咲かせる花火を三人の真ん中で見上げる。皆歩みを止め、夜空を見上げ宴もたけなわだ。
浴衣だけは散々だったが、人混みではカイトが先導してくれたり、Wが会話で気を紛らわせてくれたお陰で酔う事はなかった。
時折二人が邪険な空気になりそうになっていたが、今は落ち着いているようだ。

「綺麗だ」

「ああとても、な」

「凄くきれい、だ」

カイト、W、と順に両隣から肯定の声が響いた。
乗り気ではなかった七夕祭りだったが、ほんの少し、この二人とならばまた来てもいいような気がした。



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レイミ様リクエストのW→凌←カイでした。
総受けでも宜しいと言う事なので、好きなものを詰め込んでしまいました…!
リクエストありがとうございました。






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