学パロ/Vが年下だったら



「凌牙!」

二年の教室のドアがすぱん!と小気味いい音でスライドすると、開けた張本人である桃の花色の後輩に、机へ突っ伏していた凌牙は元気に指名された。呼ばれた瞬間に零れたのは大きなため息。
放っておくと、女子に非常に可愛がられているらしい後輩は彼女達にお願いをして凌牙を引っ張りだそうとしてくる。それは避けたいと仕方なく、ぐぐっと伸びをしつつ椅子から立ち上がり声のする方へ赴く。暇さえあれば遊馬と一緒に突撃されるものだから、嫌でも接し方を覚えてしまっていた。

「今度は一体なんだ、V」

不機嫌に問い掛けるとエメラルドの瞳が嬉しげに輝く。凌牙より僅かに高い目線からそんな風に見られると言い返す気力も除外されてしまいそうだ。しかも相手は凌牙のつっけんどんな態度や言葉もまるで気にしていないのだから、拒絶という守りは意味をなさない。

「ふふ、あのね。今朝クラスに行ったら、大きな笹があって。僕のクラスは七夕に短冊を飾るんだって」

「へぇ……」

ドアの端に身体を預け、曖昧に相槌をとる。Vも、Vのクラスもイベント事に敏感らしいが、凌牙のクラスはそういった事には無頓着なもので、『七夕』という行事もカレンダーで目に掛かる程度だ。

確か先月にも六月はジューンブライドだね、と言いアークライト家への養子縁組を一ヶ月を通して事あるごとに勧められたのはあった。今思い出しても、あの時のVの熱烈な勧誘をよく断り切ったと自身を称賛したくなる。

「沢山飾りを作ってさ、クリスマスツリーみたくなりそうだよ」

「……おい、V。まさか俺を呼び出したのはその話をしたかっただけか?」

きょとり、とVが首を傾け、ややあって何かを思い出したらしく違う違う、と勢いよく両手を左右に揺らして否定を返した。怪訝に眉を寄せる凌牙を傍目に、Vはぱたぱたと制服のポケットから何かを取り出そうとする。

「あ、あった!はい、コレは凌牙に」

「?短冊……」

「うん。放課後取りにくるから、それまでに願い事を書いておいて。あと名前もね」

薄い紫色の長方形の紙を渡され凌牙はクエスチョンマークを飛ばす。俺は関係ないだろう、と呟いたがVは譲らないらしく薄紫色の紙は凌牙の手に戻される。

「いいんだよ、凌牙は特別だから」

そう言い残し、Vはふわりと笑いクラスへ帰っていった。


「……願い、か」

手に残ったのは薄紫色の短冊。席に戻ると、何も書かれていないその紙をじいっと見つめ、諦めたように溜め息を吐いた。


放課後、Vが短冊を回収しにくると凌牙は既に帰った後だった。そして彼の机には渡した短冊がぽつんと伏せられていて。

『今のままの日常を 神代』

そう丁寧な字で綴られていた。

「素直じゃ、ないなぁ……」

そんな凌牙の細やかな願い事にVは愛おしげに文面を撫でる。今のまま、という事は休み時間に会いに行っても構わないのだろう。勉強を教えて欲しいと聞いてもいいのだろう。それに、デュエルも相手をしてくれるのだろう。

この願いが必ず叶うよう、笹の一番天辺に近いところに吊そう。神代と綴られた名前の上にそっと口付けを落とすと、Vは大切そうに短冊を両手で包み込んだ。







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