様々な事に決着が着いた後のIF話
「寂しいだろうな」
がさがさと細長い枝葉が擦れる音と共に耳に届いた小さなWの独り言に、凌牙は訝しげに片方の眉を上げ彼の方を見てしまう。
「何がだよ」
「……聞こえてたのか」
「しっかりとな」
何が寂しいのか、薄く笑いながら問い掛けてしまうとWは気恥ずかしいような苦いものでも噛んでしまったような顔をした。口からはあー、とうなり声。
Wからしてみれば聞こえない声量だと思えていたのかもしれないが、生憎今の凌牙は歩く以外兎に角やる事がなく暇を持て余していたのだから耳聡くもなる。
「……、もうすぐ七夕だろう?」
「ああ。だからこうやって俺たちが竹を切り倒して運んでるんだろうな」
ざかざか揺れる笹の葉を一瞥し凌牙は嘆息する。
短冊を飾りたいとVと遊馬に詰め寄られた時に断わりきれなかったのが悔やまれる。渋々竹一本を切ってきてやることを承諾してしまい、待ち合わせ場所に行けば同じく押し切られ道具箱片手に待つWが居たのだから、Vと遊馬にしてやられたと思ってしまう。
「凌牙、まだ根に持ってんのか?運んでるのは俺なんだから機嫌直してくれよ」
「うぜェ。――で、話戻してWは何が寂しいんだって?あ?」
女王様だな、というWの呟きは無視しつつ早く話せと無言で笹運び役をじとりと見る。口元を和らげてWは担いでいる笹を抱え直しながら話す、話すって、と白い雲が浮かぶ上空を見上げた。
担ぎ直した反動で細い枝が大袈裟なくらいにしなる。
「あれだよ……まあ、ありきたりなんだが、一年に一度しか逢えないっていうのが、な」
「織姫と彦星か……あれは結婚して怠惰になったのがいけなかったんだろ」
「原因はそれだとしても、引き離す権利なんて誰にもないとか俺は考えてしまうんだって。……何より離れ離れは辛いし、寂しい」
Wが自嘲じみた声で、それだけさ、と口を閉じる。陰る双眸に映るのは過去に犯した後悔と哀しみ。
一番彼を憎み恨んだ事のある凌牙だから分かる、Wの感情の沈みに開きかけた口を噤んだ。
ここで何を述べたとしても、お互いに救われることなどないだろう。
「……W」
「凌牙?」
閉ざした声の代わりに動いたのは、空いていた片手だった。恐る恐る、凌牙の手の平はWの手をぎこちなく掴んだ。慰めのつもりはない、かといって許すつもりでもない。ただ、無闇矢鱈にWが己自身を虐げるのを見るのは、どうしようもなく嫌だった。
恥ずかしさで耳が熱くなるのを顔を伏せてやり過ごそうとすると、掴んでいた手が丁寧に握り返される。指と指が綺麗に交差され、きゅ、と握り繋がれた。
「下手だなぁ。こうするんだって」
「……っ」
「なあ、凌牙。一年に一度だけもこうして愛しさを確認出来たら、……また離れても寂しさは我慢出来るのかもな」
帰ろう、と柔らかい声音でWは凌牙の手を引く。笹が軽やかに枝葉を揺らした。