気分が根から沈む。憂鬱や不安や焦燥が一気に纏わりつき、キリキリと胸の辺りを絞め上げていく。
朝方の右京からの電話で既に体温が一気に引いたのだが、これから更に難関が待ち受けている。部屋の時計の針を見つめながら凌牙は、ぎゅうっと唇を噛んだ。
ひたすら担任である右京の電話口から伝えられた言葉を思い返しながら、塞ぎ込みたくなる気持ちを抑え先日会ったばかりの天城カイトを待つ。


インターホンが来訪者を知らせる音を鳴らし、凌牙はびくりと身体を揺らした。来訪を知らせる音が厭に重苦しく耳朶を打つ。
誰もいなければいい、と叶わぬ幻想を抱きつつ震えそうになる指先でそっと玄関の把手を押した。

「……っ」

幻想は一瞬で消えてしまう。インターホンの隣に先日の男、天城カイトが立っている。その姿を見て、凌牙は直ぐに目を伏せてしまった――真っ直ぐに凌牙を見てくる彼の力強い双眸が苦手だ。

しかし何時までも無言を突き通す訳にはいかない、玄関を開けた手前閉じる事も出来ず。どうしたらいいのか半ばパニックに陥りそうになったが、それは凛とした声が引き留めてくれた。

「入ってもいいか」

「あ、ああ……」

我に返った凌牙は流されるままにその言葉に頷き、玄関の戸を押し開く。陰になっていた屋内から一歩出るとカイトという存在が居るからか、外が不思議と新鮮に見えた。 視覚だけの明るさだけでない、心神的にもその光が差した様な感覚。

「神代」

名を呼ばれれば、すっと指先の震えが引いていった。何故、と吐露するより早く凌牙の視線はカイトの灰青の両眼と引き合わされる。
可笑しな事に、彼が怖いとは感じない。



 

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