どうすれば良いのだろう。表札の前から人の気配が消えたのを確認し、凌牙はずるずるとドアの内側に座り込んでしまった。指先からすっと温度が引いていく。

「は、あ、――っ」

心拍数が上がったのか脈の打つ音が耳元まで競りあがった感覚すらして、きつく唇を噛んだ。荒れる息が忌々しい。

「……、くっそ……っ」

何度も何度も深呼吸を繰り返し、無意識に流れる涙で歪んだ視界をぼんやりと視認した彼は漸く多少の冷静さを取り戻した。
書店の紙袋を玄関脇に置き、軽い音をたて玄関の鍵を外しそとをおずおずと覗き込む。夕暮れで赤らむ景色の中、中身が見れる構造の郵便受けの中に投げ込まれていた大きめの茶封筒が不思議と目を惹いた。
かつん、と一歩踏み出し、またどうすればいいのか分からなくなりそうになる。
あの茶封筒は、先程出会ってしまった男が持っていたものに間違いないだろう。と困惑し出す頭で何とか思考を纏める。

意志の強い眸、だった。灰色のつ、と吊り上がった気丈な双眸を思い出し顔を顰める。――苦手な目だ。
本能が冷たく凌牙に警鐘を鳴らしている。関わり合うな、考えるな、さっきの奴からはあの男と似たモノを感じるぞ、と。
震える指先で郵便受けを開け、封筒を抜き取ると銀色のクリップに白い紙が挟み込まれていた。怪訝に思いながらその紙を取り書かれていた文字を認識した途端、目尻からぼろりと涙が零れる。

「っ!来なくて、いい……!」

なぜ関わらおうとするのか、疑問で仕方なかった。関わらないでくれと心は思っているはずなのに、その手にした小さな白い紙をくしゃくしゃに丸めてごみ箱に捨てることが出来ない。
それに何より、あの真っ直ぐに凌牙を見てきたあの姿が瞼に焼き付いて離れてくれない。


 

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