書類にクリップで留められていたメモには凌牙の家までの地図が描かれていた。ぴ、とそれを外し、カイトはゆるやかな坂道を上る。凌牙の家は自分の行き来する道とは正反対の場所にあるらしく、目新しい場所が目につく。
それほど複雑ではない道程だが、雑木林の脇を抜けると桜の木が点々と立つ道から田園が広がる景色が見えたり、四季を通して登校するには飽きない。

そうして映る風景にうっすらと目元を緩め、やがて数軒隣り合う住宅地へと入るとその中の一軒の前で足を止めた。表札を確認すれば、『神代』の字。
ここか、とインターフォンの前でどう言いだすものか僅かに思案していると前方でトサッ、と何かが落ちた音が聞こえカイトは視線を音の方に切り替える。

「? お前……」

「っ!」

群青をした双眸とかち合った。透明の硝子玉に澄んだ青絵の具を落とした眸にカイトは一瞬目を見張る。相手もカイトを見て驚いたようだが、直ぐに落した書店の紙袋を引っ掴むと、脱兎の如く神代と表札の掛かる家の中へ姿を隠してしまった。

「な、待て、……っ」

カタン、と鍵がかかる音が聞こえ胸に灰色の靄が渦巻く気配がする。
交わった時の群青の眸は、酷く怯えた色を湛えていた。ゆらゆらと揺れていた彼の目が網膜に焼き付いて離れない。

「神代……凌牙、か」

どうにも、あの眸に自分の姿をまた映させたいと思ってしまったらしい。

カイトは書類に『また来る』と書いたメモを挟むとそれを郵便受けへ落とした。先ずは右京が出張から帰ってきてから凌牙への書類の受け渡しの役を変われと言う事にしよう。




 

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