「凌牙、大丈夫か」

六限が終わる鐘の音を聞きながら、保健室のベッドに腰掛ける凌牙へカイトはゆっくり問い掛ける。
ぐったりと力なく顔色も真っ青だというのに、大丈夫かと訊けば無言で頷かれた。

「その割には顔色も悪いし息も荒くなってるがな」

「うぜー……」

そんな状態で強がられてもあまり意味はないだろう。そう若干呆れながらも、養護教諭が置いていったミネラルウォーターの蓋をカリッと捻り、凌牙へ手渡すと一気に半分程飲み干してしまった。
緊張すると喉が渇くと言うが、余程だったらしい。こくり、と咽下する凌牙の喉元をひっそり目に焼き付けつつもカイトは考え込むように腕を組み顎に指を乗せる。

「授業にも随分出られるようになった。勉強もきっちりと出来ている。……何もこうなるまで一日学校にいようと無理しなくともいいんだぞ」

「……、……受験、あるじゃねェか」

「余程偏差値が突き抜けた高校を取らないなら実力は気にする事はないだろう。内申書も……ああ、」

とそこで言葉を区切る。少しずつ、と口では言うが凌牙は内心焦っているのだ。受験生ともなれば、試験と同時に内申点もある程度必要とされる。勿論、その中には休んだ日にちも盛り込まれている訳で。
学校へ来られなかった分を無意識の内に取り戻そうとかなり精神的に無理をしているのを、カイトが見抜けないはずがない。
途中で飲み込んだ言葉に凌牙はむすりと眉を寄せている。

「何だよ、言え」

「やはり気にしているんじゃないか。まあ、内申書は気にしなくていいと思うぞ。無害そうな担任だからこそ、やる時はやるだろうしな」

正直、二人の担任である右京が内申書を書くのならば、出席日数が霞むほどの総合所見を書き上げてくれるだろう。言うなれば、うちの教え子素晴らしい自慢のオンパレードだ。
あの教師は個人の頑張りを正当に評価し、理解してくれる。

「……」

「次に次にと、急き過ぎは禁物だ」

「そんなに急いでない」

す、と凌牙が言葉と共に目線を逸らす。それじゃあ本心が丸分かりじゃないか、とカイトは口角を吊り上げる。

「身体は素直なのにな」

「あ?」

一つ一つの仕草は素直だというのに、出る言葉は天の邪鬼な奴だと、凌牙を見ながら肩を竦めた。じっと睨み付ける凌牙の髪をくしゃりと撫でれば、嫌がる事なく珍しく彼はカイトの行為を享受してきた。

矢張り、参っていたのだろう。頭を撫でられる凌牙の目は緩く和らいでいった。



 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -