カイトの制服を濡らしてしまうと思ったが、構わないから存分に泣いてしまえ、と落ち着く声音で囁かれてしまえば涙も止まりそうになかった。カイトの肩口へ押し付けられ、緩んだ涙腺からは目蓋を閉じても温かい水滴が溢れてしまう。
「――……落ち着いたか」
「……、ん」
暫くして、カイトが問うと肩口に顔を埋めたまま凌牙はこくりと頷く。顔は上げたくないらしい。
ぐりぐりと耳元へ甘えるように顔を寄せられると、カイトの心臓が一層速くなる。
「、そんな事をすると自惚れてしまうが……いいのか、凌牙」
「そんなの好きに解釈すりゃ、いいだろ」
「……そうさせてもらおう」
少し渇いた、泣いた後特有の声がぐぐもって聞こえてきた。大分調子を取り戻せた凌牙の返答の様子にカイトは目元を和らげる。
凌牙が落ち着いた今なら、あの男の件を聞いてもらえるだろうか。
「聞いてもらいたい事があるんだが、嫌だったら受け流せ。 此処に来る途中、赤目で金と紅色の髪をした高校生に遭った」
ぴくり、と凌牙の肩が跳ねた。思い当たる人物がいるのだろう。カタカタと小刻みに震え出した凌牙の手を、カイトは何もいわずに握り返す。
そうしてやれば、稍あって先を促すように凌牙がその手を握り返してきた。表情は見せないが、無言で耳を傾けているのだろう。
「――。ソイツは、お前を探していると言っていたが……あれは嘘だろうな」
「ああ」
「知っているんだろう、今のお前を」
「そ、うだ、知ってる」
「あの男はお前の――」
何なんだ、と言葉は続けられなかった。これ以上踏み込んでしまえば、凌牙のトラウマの核心に触れてしまう気がしたからだ。
言うか言わないか決めるのは凌牙自身だとカイトは口をつぐむ。別の言葉に変えようと息を吸ったと同時に凌牙の纏う雰囲気が変わる。
「……おい、カイト」
「なん、だ」
「少し、話をさせてくれ」
するり、と凌牙が顔を上げ困ったように笑った。目許には泣いた余韻が残っている。目も赤さが引いていないし相変わらず手元は微かに震えているが、カイトを真っ直ぐに見つめる眸は初めて会った時とは違い、揺るぎない凛とした輝きを湛えていた。
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