「お前自身をそんな風に貶すな。それだとお前を思っている奴に失礼だ。お前はもう少し自信を持って構わないだろう」
目線を逸らしたがる凌牙を逃がさないとばかりにじっと見つめ、カイトはゆっくりと言葉を選ぶ。
「……あの日、凌牙の気持ちも考えずにキスをしたのは悪かったと思っている。 だが、俺はその事を謝りたくはない。無かった事にしたくはないからな」
「何、言って……」
「率直に言う。――凌牙、俺はお前に好意を持っている。友人としての好意ではない、一人の人間を焦がれる……恋愛としての好意だ」
一瞬、凌牙の呼吸が止まった。
カイトを見る眸が硝子玉のように丸くなり、ぱちぱちと頻りに瞬き長い睫毛が微かに揺れる。数秒置いて、動揺したかと思えば、あっという間に彼の目元がぶわっと赤く色づいた。
ぐるぐると目を回しそうな勢いで声にならない叫びを上げかけている。
「な、何っ……からかうなっつってんだろ!」
「俺は真剣だが? フ、そんな反応されると――自惚れてもいいのか」
「っ……!」
握っていた凌牙の指先に、カイトはそっと口付けを落とす。
包み込まれた手から伝わるカイトの高めの体温に凌牙の心の中のがらんどうな部分が、温かい何かで満たされる。
抵抗はしなかった。否、そうした選択肢が浮かばなかった。
「――、あ」
「……漸く、我慢しなくなったな」
カイトの穏やかな声が耳元に落ちてくる。抵抗の代わりに出たのは、音もなく滑り落ちる透明な水滴。
透き通った眸から見る見る内にぼろぼろと頬を伝い涙が溢れてくる。滲む凌牙の視界に映るカイトは安堵したような雰囲気で口元は小さく笑んでいた。
「どうして、俺は、泣、いて」
「色々抱え込み過ぎた所為だ。 おいで、凌牙」
カイトが腕を引くと、覚束ない足取りで凌牙は大人しく腕の中に閉じ込められる。ドアを背もたれに、カイトは肩口に顔を埋め微かに嗚咽を洩らす凌牙の背をとんとん、とあやした。
幼子にするような遣り方だったが、凌牙にしてみればこうして気持ちを受け止めて貰えたのは初めてで。感情の栓を緩められ涙は止まることなく溢れ落ちていく。泣くことを許してくれる暖かいカイトの体温が、どうしようもなく心地良い。
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