少し前と同じように凌牙の部屋に踏みいった途端、凌牙が振り向き何か言いたげに視線をきょろきょろと泳がせている。必死に言うべき事柄を頭の中で組み立てているのだろう。そう思ってしまえば、器用ではないな、と微笑ましく見えてくるのだからカイトの色眼鏡も度数を上げてきているのかもしれない。

「この間、の」

少しして渇きそうな声で凌牙は怖ず怖ずと、カイトの頬へ手をあて言葉を絞りだす。

「俺が叩いた、場所……大丈夫だったか……?」

ひたりと指先が頬に触れ、凌牙が深刻そうに眉を下げる。少しばかり赤くはなったが今はなんともないのに。
だがその事をずっと気に病んでいた凌牙には一番に聞きたかった内容なのだろう。思わずカイトは口角が上がってしまう。

「――そんなに苦しそうな顔をするな。あれは、俺の自業自得だろう」

罰が当たったのだと更にカイトが付け加えると、頬に当たる指先がぴくりと震えたのが判った。次いで、話を聞いていた凌牙は悲愴な顔つきで何度も頭を振り、違う、と言う。

「俺が悪かったんだ。お前にされた時驚いて……頭が真っ白になって、怖くなったから」

「怖くなった、か」

「ああ。怖くなった。あの時……からかわれているんじゃないかと思ったんだ。面倒な俺の性格を、お前が好きになるはずがないと、そう思って」

過去を思い起こす藍色の双眸が一層脆く見えた瞬間、頬にある凌牙の手をカイトが強く掴み思考を強引に引き戻した。別の熱に包まれた片手に凌牙が目を丸くし、澄んだ瞳を何度も瞬きしている。

「その言い方は止めろ」

「っ」

びくり、と凌牙の身体が跳ねた。あの時の事でネガティブな部分が出てしまうのは後から気付いたが、面と向かって告げられると此方も我慢がならない。
カイトはざっくりとものを言い卑下されるのが嫌いな性格の持ち主で、凌牙は常に様々な気持ちを抱え込んでしまう性格をしている。正反対だから、誤解が生まれたのだ。





 

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