気が付くと溜息ばかりを吐いていた。
教師の抑揚のない文字を朗読する声を聞き流し、カイトは窓の外へ視線を向ける。重く垂れ込む鈍色の空が自分の心を表しているような気がした。

あの祝日の教室での一件以来、カイトは凌牙の元には行っていない。いや、行けなかった。下校時間になると無意識に凌牙の自宅方向へ足が向くのだが、そこで冷静な自分がセーブをかける。
踏み越えてはいけないラインを、カイト自身が踏んだのだと冷静な思考が叱責してくるのだ。
あの日の事で一番初めに思い出すのは、『カイト』と呼んだ緊張感と不慣れさを含んだ声。それから唇が触れた柔らかな感触と不安定に揺れた凌牙の眸、頬に走った熱を帯びた痛覚。――気にすればどんどん思考は深みに填まる。
何故、あの衝動を止められなかったのか。純粋に触れたいと思った感情で、凌牙を困惑し挙げ句に泣かせた己自身をカイトは許せない。
手にしていたペンが、ルーズリーフの隅に小さく『りょうが』と綴ると芯の先がぽきりと折れた。


きっと、恐らく。凌牙へ向かうこの感情は、愛しいや恋しい、欲しい、傍にいてやりたい……上げればキリがないのだが、どこまでも焦がれる想いの欲求に満ちたものなのだろう。だから凌牙を独りにはしたくはなかったし、話したいと思った。

「――、」

ああ、とそこでカイトは段々と気持ちの正体を掴んできた。凌牙への感情と、キスをしてしまった衝動、それから……凌牙に何があったのか何一つ詳しくは知らないと言う事実。
ろくに知らないくせに、勝手な感情を押しあてる形で凌牙を悲しませてしまった。

それらはどうしようもなく一方通行なものだが、彼を知らずに不明瞭なままこの関係を手放すのは、どうしても嫌だと思う。
我が強いと、自分をそう凌牙に言ったことをふと思い出せば口角が僅かに上がる。あの何処か臆病な彼は怒るだろうが、キスの件は謝りたくはない。

――放課後、また行ってみるか。

突き放されてもいいから、真っ向からあの藍色へと気持ちを言葉にしたかった。




 

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