side:凌牙



人間が嫌いだと感じるようになったのは中学の二学年の後半から。
切っ掛けは三つ年上のWからの言葉の切っ先で胸を抉られたのが始め。奴にとってはいつもの軽口のつもりだったのだろう。しかしそのいつもの軽口が俺の心のどこか深い場所で日々蓄積されてきていたのをWは知らない。

比例するように段々と他人の視線が怖くなった。目に映るクラスメイトや声をかけてくる奴らが分厚い壁を隔てた明るい場所にいる錯覚。俺はどうやっても壁の内側に独り、動くことができなかった。


当初はWが放つ声の一つ一つが胸につっかえた。あの時一言二言怒りながらでもいなせていれば、こんな俺は居なかったに違いない。Wの苛め癖もきっと落ち着いただろう。

だが実際はそうはならなかった。テレパシーの如く正確に思考が他者に伝わるなんて誰にも出来はしない。
声が、耳へ伝わる度に喉から擦れた空気がヒュッと鳴り、指の先から温度が無くなっていく。口はカラカラで、反抗的に言い返す気力も削がれてしまっていた状態だった。
いつもの事が日常でなくなる時、そこには暗い感情しかなかった。

今まで正常に機能していた精神がパキン、と、呆気なくひび割れた瞬間がその時。脆くなった自分を隠すように、俺は他者との関わりを持つことを拒絶した。
後になって、気付く。もっと言葉に出来ていたなら、と。だが俺は耳も目も塞いでその後悔を素知らぬふりして捨ててしまった。




 

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